01. スタミナを生かし、最後まで止まらず走ったのがロブチェンだった。泥試合を持久力でねじ伏せたんです。
皐月賞、ダービー制覇!
細江ダービー厩務員ですね、おめでとうございます。2冠達成となりましたね。
房野ありがとうございます。担当馬がダービーに出走するのは初めてだったんです。「よし、勝つぞ!」と気合を入れて臨んだわけではないですが、結果的に、目の前にあることをやって一歩、一歩進んで行っただけなんです。出るからには勝ちたかったですからね。
細江素晴らしいレースでしたが、新馬の頃のロブチェンは、どんな馬でしたか?
房野ボテッとした体型でしたね。イメージで言ったらダート1400mかなみたいな。新馬戦は京都の芝2000mでしたけど、当日は雨が降っていて重馬場でした。それで逃げ切り勝ちをしたので、乗った松山(弘平)騎手と「ああいう、力の要る馬場は得意そうだね。ダートで走りそう」と話していました(笑)。
細江この1勝で、いきなりGIのホープフルSに参戦となりましたが?
房野新馬戦を勝ったからって「こいつ、ヤバイぞ!」とは、さすがにね。だから、出走すると聞いて「へぇ~」というぐらい。たぶん、松山くんも条件戦を刻みながら使っていくと思っていたんじゃないでしょうか?
細江そうなんですか?でも、強かったですよ。直線で前が壁になった時の、あの外にスライドしていった動きは瞬間移動したみたいでビックリしました。
房野外に持ち出した、残り150mぐらいから再加速して前を抜き去ったんですよね。並ぶ間もなかった。
細江あれができるのは、やはりロブチェンの体の作りに秘密があるのかなと思うんですが。
房野よく、僕がロブチェンはワニみたいって言うでしょ?ホープフルSの時はしんどいから、かなりモタれているんです。普通の馬はそういう時、頭の位置がうんと下がったり首を上げたりしますよね。でも、ロブチェンは明らかに、どの馬よりも頭の位置が低いんです。
細江かなり、独特なフォームですよね。
房野地を這う、ワニのような姿勢になっています。車高が極端に低いんですよね。
細江それで、ワニに乗っているみたいだから、ワニチェンっておっしゃっているんですね。
共同通信杯の時は「もう、アカン!」って
細江そのフォームを替えようとは考えませんでしたか?
房野あの走りだからこそ、ロブチェンは強いんです。だから、ムリに姿勢を起こそうとは思いませんでした。というか、僕はどの馬に対しても、姿勢ではなく徹底してハミ受けに関してやっていくスタイルなんです。
細江ハミ受けですか。
房野はい。僕は500mの角馬場での動きで善し悪しを判断しています。ハミ受けがいい感じの時は、馬が勝手に進んで行くし乗りやすいんです。
細江走りがキレイに整って、コーナリングもスムーズということですね。
房野はい。うちの厩舎はいつも、500mの角馬場を3周するんですが、ホープフルS前は気持ち良く乗れたので4周したのを覚えています。でも、共同通信杯の時は地獄のようでした。坂路に行けば頭が下がる走りをして、どこまで行ってもモタ~っとしているし、コケそうだし。ちょっとした物音でブワァ~っとダッシュしようとしたり。輸送直前の金曜日に500mの角馬場に行ったときは制御不能でした。「もう、アカン!」って。
細江それがあのロケットスタートになった?
房野そうです。一生懸命走ることと、ムキになることは違いますよね。あれは馬が苦しがっていた証拠です。タイミングによっては突進でやり直しになっていたかもしれない。それが3着という結果になって表れたんだと思います。
細江それを皐月賞までに整えていくとなると、焦りが…。
房野そうなんですよ。だから、ハミ受けをキチンとして角馬場を回れるようにと全力投球でした。
皐月賞で感じた勝負根性
細江皐月賞までには、だいぶ良くなっていましたか?
房野そうですね。でも、重賞を勝って参戦していた馬が9頭いましたし、リアライズシリウスは2勝していましたよね。それなりに、やれるとは思っていましたけど「勝つぞ!」みたいに気合が入っていたわけでは…。
細江ファンは1番人気に推しましたが?
房野人気になってほしくないと思っていたんですけどね。もちろん、能力があるのは分かっています。でも、競馬は何があるか分からないじゃないですか。だから、勝っても驚かないけど、負けても驚かないという心持ちでいました。
細江レースはリアライズシリウスが2番手に押さえたのでハナを切る形でした。まさか!と思って見ていたんですが。
房野それは、僕もです。この業界に長年いると、4コーナーで勝敗って分かりますよね。だから、ロブチェンがどこまで粘れるかを見ていました。そうしたら、直線で「あっ、またきた」って。ロブチェンのストロングポイントは、あのスタミナなんですよね。
細江改めてタフさと勝負根性を感じたんですね。レース後はどうでした?
房野いつも通りですよ、落ち着いていました。
細江皐月賞を逃げて勝ったとなると、次のダービーではコントロールが難しくなりそうなイメージですよね。しかも、8枠17番に入りましたし。
房野いい枠ではないですよね。それで調べたら、ナリタブライアンとワグネリアンが同じ8枠17番で勝っていたんです。近い年代の方が競馬の質が似ていると思って、ワグネリアンのレースを見ました。で、これで勝てるんだって。
持久力でねじ伏せたダービー
細江安心材料を得て挑んだんですね。当日のパドックを見てビックリしました。皐月賞の時とは別の馬みたいでした。
房野そうですよね。皐月賞の時は、まだゴロンとした体型でした。そこから放牧に出てダービーの時はグッと胴が伸びていました。それほど、パワーアップした感じがしなかったですけど、常にコントロールが利くように、ハミ受けを良くするように、そこだけ考えてやっていきました。
細江レース当日は、どんなお気持ちでした?
房野とにかく、装鞍所からパドックまでメチャクチャ雰囲気が良かった。共同通信杯の時とは全然違っていたんです。それを見て、もう大丈夫と思いました。僕自身も「楽しかった」ってそれだけですね。
細江皐月賞の時とは、心持ちがだいぶ違いますね、実際のレースでの走りはどうですか?
房野位置はまあまあだと思っていました。それなら、抜け出しての押し切りか…というイメージですよね。でも、直線に向いた段階では厳しいかもと。
細江そこから、伸びての勝利でした。
房野そうですね。スタミナを生かし、最後まで止まらず走ったのがロブチェンだったんですよね。泥試合を持久力でねじ伏せたんです。
細江ボクサーが試合終盤で、最後の力を振り絞ったような?
房野そうそう(笑)。でも今は3歳限定のレースを勝ったところです。高校球児は甲子園で終わりではなく、プロになってのさらに先があるように、ロブチェンも古馬になっての戦いが待っています。真価が問われるのは、これからだと思っています。
(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。