01. グランプリ制覇は石橋調教師に恩返しできたと感じたし嬉しかったです。
宝塚記念制覇
細江メイショウタバルの宝塚記念の制覇、おめでとうございます。あの勝利は見事でした。
上籠ありがとうございます。
細江タバルの担当は、いつからなんですか?
上籠ゲート試験合格後に放牧に出て、栗東に帰ってきてからですね。初めて乗った時、直感で「これは走るな」と感じました。けど、競馬でテンションが上がらないといいな~と。幼すぎて、他の馬がいると過剰に反応したり、飼い葉桶のぶつかる音に敏感だったりしましたから。
細江音に敏感だと、競馬場でファンの歓声が上がったらって、心配になりますよね。
上籠はい。勝てる力はあるけど、慣れないと難しいかもとは思いました。
細江初勝利はデビューから3戦目でした。やはり、慣れが必要だったということでしょうか。
上籠新馬戦は競馬場に着いてから落ち着きがありませんでした。装鞍所からパドックまでメンコをしたんですが、外したとたんに“パンッ”という感じに気が入ってしまったんです。2戦目はゲート裏までついていきましたが、やはり気が入ってしまって、全然競馬になりませんでした。
細江何か対策は考えましたか?
上籠先生にお願いして、3戦目はメンコをつけさせてもらいました。これで勝つことができたので、競馬の時だけメンコをつけようということになったんです。
細江年明けは若駒Sを予定していましたがハ行で除外に。その後、つばき賞、毎日杯と連勝しました。毎日杯は見事でしたね。
上籠(坂井)瑠星はテン乗りだったので、「出たなりで」と話していたんですが、行く馬がいなかったので結果的に逃げ切る形になりました。あの走りを見て、「相当、能力があるんだな」と感じました。
細江先行有利な馬場とはいえ、直線で後続を突き放す強い競馬でした。皐月賞も逃走Vのチャンスではと言われていましたが?
上籠それを、意識し過ぎたんじゃないかなと…。スタートから飛ばしましたよね。「これは、今後のレースが大変かも」と思いました。
細江相当なラップで逃げましたし、馬のダメージも考えちゃいますよね。
上籠行くだけ行って止まったので馬体のダメージはそれほどなかったんですが、一番心配だったのは馬の気持ちの面です。ここからは、担当者として、どう接していくかで変わるなと感じました。逃げ馬になったきっかけを、毎日杯という人もいますが、ムリに逃げたのではなかったですよね。タバルの場合、気分良く走ることが重要なんです。どの馬もそうですが、特にタバルは力むか、リラックスするかで走りが全然違ってしまいますから。
ダービー回避の舞台裏
細江リラックスして走れるような気遣いが必要だと。ここで気が入った状態を考えると、ダービーを回避したのは上籠さんとしては…?
上籠結果的には良かったとは思います。
細江でも、苦しい期間でしたよね?
上籠どうやって、気持ちをなだめようかとズッと考えていました。時には気を落ち着かせる漢方を飲ませてみたりもしましたよ。獣医さんとも相談しながら、馬の気持ちをくみ取っていくしかなかった。結果的に爪の問題で参戦を見合わせましたけど、ここでムリをしなかったことが、その後につながったと思います。
細江難しいですよね。馬にとってダービー参戦は1度きりのチャンスだし。
上籠たしかに、使いたい気持ちはありましたけどね…。ここで回避を決断してくれた、松本(好雄)オーナーに感謝しています。
細江休んでの神戸新聞杯は快勝でした。
上籠実は、あれでも力んではいるんですよ。でも、向正面でフッと首が上がったんです。だから、落ち着いてきたんだなとわかりました。あの馬は、リラックスして走っている時は頭が上がるんです。
細江ということは、菊花賞はタバルにとって、かなり厳しい競馬だったということですか?
上籠中間も追い詰められているような感じがあったし、競馬では行くだろうと予想はしていました。坂を下るまでは、うまく行っていたんですよね…。でも、そこからエンジンがかかっちゃった。同型もいて競りかけられたし…でも、それも競馬ですから。
ドバイ遠征
細江かなり繊細な馬ですけど、菊花賞後に日経新春杯(11着)を経てドバイへ遠征することに心配はありませんでしたか?
上籠国内にずっといるより、思い切って海外に行ったほうがいいかなと思いました。全然、知らない土地なら「どこに、連れてこられたんだ?」みたいな感じになって、人間を頼りにするんじゃないかと。
細江以前、ハーツクライも海外遠征に行ったときに、そうだったと聞いたことがあります。実際はどうでした?
上籠日本にいる時も、自分がいないと鳴くんです。ドバイではもっと鳴いていました。夕方3、4時ぐらいに飼い葉をつけたら、夜は現地のグルームにお願いするので、そこから会わないでしょ?だから、朝イチで自分が行くと、すごく鳴く。
細江本当に上籠さんが、恋しくてしかたないんですね。カワイイです。飼い葉などは、日本にいるときと変わりなく?
上籠そうですね。この馬は朝イチで一口、飼い葉を食べさせるんです。ちょっと食べて空腹を少しでも満たすと気持ちが落ち着くんですよ。そうなると、僕も作業を慌てずにできます。そこから、調教をして冬なら11時ぐらいに飼い葉ですよね。そこまでは、お腹が保つんでしょうね。
細江小腹が満たされて、納得するんですね。ドバイターフは見せ場を作っての5着でした。レースの結果のほかに、得るものはありましたか?
上籠道中でつつかれても動じずにリラックスして走れていたし、帰ってきてからは操縦性が良くなったように感じます。やってきたことが、いい方向に出ているんだと思っています。宝塚記念に向けての追い切りは、これまでで一番よかったし、確実に「これまでと違う」と感じました。
石橋調教師へ恩返し
細江馬体も成長していますか?
上籠体重の変動は、あまりない馬なんですが、以前より首から肩周りにかけて大きくなって幅が全然違います。
細江たしかに、追い切りでの走りも迫力が増しています。宝塚記念当日はいかがでした?
上籠パドックでは自分が抑えようとしなくても、リズム良く歩いていました。菊花賞の時は、もっとガツガツと前進気勢が強すぎるなという感じでしたからね。
細江パドックから好感触だったんですね。レースは、どこでご覧になったんですか?
上籠ゲートまで行ったので、帰りのバスの中で見ました。4コーナーに入っても、まだ逃げていたから「頑張ってるな~」って。そこから、そのまま先頭だったから「頑張れ!頑張れ!」って応援していました。まあ、一緒のバスで帰ってきた厩務員さんに「もう、勝てるから」ってあきれられちゃいましたけど(笑)。力が入りましたね。
細江それは、そうですよ。そのまま先頭でゴールして春のグランプリを制覇。(武)ユタカさんも嬉しそうでしたね。
上籠あの人が、勝ってあんなガッツポーズするのなんて、見たことないですよね。あのスタンドを差すポーズは、石橋守調教師に向けてなんですよね。普段は見ないことだし、相当、嬉しかったんだと思います。自分も石橋調教師に恩返しできたと感じたし嬉しかったですね。
(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。