ゲスト
エンブロイダリー号担当 及川 誠さん 美浦・森一誠厩舎

01. 助手と一緒に考えながらの栗東滞在で、その結果がでましたからね。本当にうれしかったです。

助手と一緒に考えながらの栗東滞在で、その結果がでましたからね。本当にうれしかったです。
細江純子さんをインタビュアーに迎えてお届けする『イケメンホースたち〜担当者が思う愛馬の素顔〜』。今回のゲストは、森一誠厩舎でエンブロイダリー号を担当する及川誠さんです。桜花賞につづいて秋華賞を制したエンブロイダリー号。前編では入厩から桜花賞までを振り返っていただきました。

入厩した時の印象は?

細江ご担当のエンブロイダリーの秋華賞制覇、おめでとうございます。

及川ありがとうございます。

細江素晴らしい内容での勝利でしたね。ゲートもちゃんと出ましたし、向正面で自ら動いて2番手につけました。

及川馬についてゲートに行っていたので、VTRでレースを見たんですが「ここで動かすんだ」とは思いました。あの位置につけなければ勝てなかったと思いますし、ジョッキーの好判断ですよね。それに対応して動けたエンブロイダリーもスゴいです。

細江休み明けでの秋華賞でしたが、調整過程はどうでしたか?

及川オークス後に3か月の放牧に出たので、疲れが取れて精神的な面も落ち着いていました。「カリカリする面がなければ、もっと良くなるのに」とスタッフ同士で話していたので、休んでいい感じにガス抜きができたんじゃないでしょうか。

細江この馬の場合、課題は精神面なんですね。

及川馬場に向かうまでは大人しいんですよ。でも、馬場に入ったとたんカッとなっちゃう。競馬では汗もかいちゃう。でも、秋華賞ではゲート裏に行っても、思ったほど発汗していませんでした。

細江成長が見られたんですね。及川さんは、入厩した時からのご担当なんですよね?最初はかなりお転婆だったんですか?

及川検疫所で会った時は、普通というか…脚が長くてスラッとしているな~ぐらいの印象でした。一緒にカルデライトも入ってきたんですけど、記者さんもカメラマンさんたちも、そちらを追いかけていましたね。エンブロイダリーは写真も撮ってもらえないし、期待されていないのかな?って。

細江そこから、ゲート試験を受けて、調教を始めると変わっていきましたか?

及川どんどん、良くなって行きました。背中がいいし、前進する力がある。「これは化けるかも」と助手と話していたんです。「重賞、行けちゃうかも」なんて、冗談を言い合っていました。

まだ行けると感じたデビュー戦

細江デビュー戦は東京1600m戦でしたね?

及川はい。当日のパドックではテンションが高くて、一人で曳くのはキツいなと思うぐらいでした。なんというか、暴れていると言っていいぐらいの感じでしたね。

細江上がりはスゴクいい脚でしたが、半馬身差の2着でした。

及川道中で子供っぽいところを見せていましたし、荒削りな走りでしたよね。真面目に走っていない訳ではないんですが、「みんなと一緒に走ろう~」ぐらいの感覚だったように見えました。

細江じゃあ、まだ余裕があるなと?

及川戻ってきてもケロッとしていましたから「これは、まだ行ける」と感じました。

細江2戦目に選んだ新潟の1800m戦で初勝利を挙げました。逃げてレコードタイムでの勝利でしたけど、勝ってうれしい反面、一度ハナで競馬をすると、今後のテンションへの不安は感じませんでしたか?

及川掛かっての逃げではなく、気分良く走ったら、ああなったという感じでしたから、特に心配はしませんでした。でも、3戦目の中山1600mではテンションが上がり過ぎちゃったかなと。

細江後方追走から直線はいい脚で上がってきましたよね(5着)。

及川レース後にルメールさんに聞いたんですが、「前走で逃げる競馬をしたので、今回は後方で我慢する競馬をさせた」ということでした。

細江ルメール騎手は能力をスゴク買っているからこそ、いろいろ試行錯誤していたんですね。

手の掛かる娘

細江11月に2歳1勝クラスを勝利して、年明けはクイーンCで初重賞参戦となりました。

及川帰厩してすぐは大人しくて、調子が悪いのかも?って思ったぐらいでした。それまでは、正直なところ“手の掛かる娘”でしたから(笑)。でも飼い葉はしっかり食べるし体調面は何の問題もなかったので、精神面が落ち着いてきたんだなと分かりました。それに、威圧感というか、迫力が出てきたんですよね。

細江威圧感ですか?

及川はい。戻っての検疫で脚の様子を見ようと触った時、「怖い」と感じました。大きくなって筋肉もついていましたしね。自分は“エンブロイダリーは2度変わった”と感じていますが、1度目はこの時です。

細江実際にクイーンCは強い競馬をして結果を出しましたもんね。いったん1400mに短縮しての1600m戦で難しさが出てもおかしくないのに、2番手でてしっかり競馬ができていました。

及川スタートもちゃんと切りましたしね。それまでは、テンションが上がっているから、ちょっと出遅れていました。精神面の成長を感じました。

細江そこから、桜花賞に向けての栗東滞在はどうでした?

及川体調管理に気を使いました。美浦はその時期、異常なぐらい暑かったんです。ところが、栗東にきたら朝の気温はマイナスと寒暖差が激しすぎました。せっかく、いい状態で栗東にきたのに、ここで熱発なんてしたらどうしようと思いました。

細江それは、かなり気が張りますね。

及川常に気温のチェックをしました。夜中に目が覚めたら厩舎に行って温度を確かめて、これから気温が上がりそうだったら馬着を着替えさせようとか。

細江及川さんの方が精神的に参っちゃいそうです。馬はどのぐらいで環境に慣れて行きましたか?

及川ソワソワしていたのは最初だけで、1週間ほどしたら全然気にしなくなりました。「ワタシ、ずっと栗東にいましたけど」ってぐらい落ち着いていましたね。でも、やっぱり馬場入りではバタバタしちゃう。だから、馬の少ない時間に調教をすることにしました。

細江静かなほうがいいってことですか?

及川静かでも1頭だけになるのはダメそうでしたね。初めての場所には、知っている馬に誘導してもらう…ぐらいの方がいいみたいです。とにかく、馬も人間も初めてのことばかりで、一緒に滞在した助手と毎日相談しながら調整していきました。

スゴい脚で桜花賞制覇

細江滞在中の獣医さんなどは、どうしていたんですか?

及川1度も診てもらってないです。森先生から「よほどのことがなければ」と言われていました。これまでの過程を知っている獣医さんは栗東にはいませんから。だから、背腰の疲れはマイクロレーダーを当ててケアをしていました。

細江美浦では獣医さんに、かかっているんですよね?

及川はい。週に1回ぐらいの頻度で診てもらって、疲労回復の治療をしてもらっています。栗東ではそれがなかったのに、むしろ体調は良くなっていったし、熱発も1度もありませんでした。

細江では、順調に調整できたんですね。桜花賞は4枠7番からの発走でしたが。

及川クイーンCも7番だったんですよ。同じ枠なら悪くないだろうと思っていました。

細江ゲートまで一緒に行ったんですか?

及川そうですね。落ち着かせたいと思っていたので、ついて行きました。桜花賞のスタート地点はスタンドから離れていて、ファンファーレの音もあまり聞こえません。初めての競馬場なので、どうかと思っていたんですが、テンションは上がりませんでした。それより、雨の中で競馬をするのが始めてだし、右回りだし。そっちが心配で…。

細江5着だったサフラン賞は右回りの中山でしたもんね。

及川だから、少しでも遅くゲートに入れたかった。なのに、モレイラさんが「行こう行こう」って急かすんです(笑)。それで、最初にゲートに入れちゃいました。まあ、ジョッキーが見て、落ち着いていたってことなんでしょうね。

細江レースは、どうご覧になりましたか?スタートしてからポジションを取りに出して行きましたが?

及川うまくジョッキーが考えてくれましたよね。中団追走から、最後の1ハロンで一気に伸びて差し切ってくれました。よく、あの脚で上がってきたな~って。

細江出して行ったうえに、道中は周囲に馬がいて噛むところがありながら、最後にあの脚を使ったのはスゴイです。ところで、ゲートまで行っていたから、レースは後で見たんですよね?

及川そうなんですよ。だから最初は分からなかったんです。戻ってきて馬を捕まえようと思ったら、助手が駆け寄ってきて握手を求めるんです。それで、ようやく「これは、勝ったのかな?」って。

細江及川さんも、助手さんも、うれしかったでしょうね。

及川助手と一緒に考えながらの栗東滞在で、その結果がでましたからね。本当にうれしかったです。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2025年12月24日 に公開されました。

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