ゲスト
サトノレーヴ号担当 齊藤 隆介さん 美浦・堀宣行厩舎

01. 初めての環境にも対応して、調教を積む。繊細で頭が良くて、柔軟で、馬ってすごいなと改めて思いました。

初めての環境にも対応して、調教を積む。繊細で頭が良くて、柔軟で、馬ってすごいなと改めて思いました。
細江純子さんをインタビュアーに迎えてお届けする『イケメンホースたち〜担当者が思う愛馬の素顔〜』。今回のゲストは、堀宣行厩舎でサトノレーヴ号を担当する齊藤隆介さんです。前編では、香港、イギリスと海外で2戦したサトノレーヴ号の当時の状況を振り返っていただきました。

香港、イギリスと転戦

細江今年の高松宮杯制覇後、香港、イギリスと転戦したサトノレーヴ。海外での2戦はともに2着と善戦しました。特に2戦目のQE2世ジュビリーSは大接戦でした。

齊藤最高の結果ではなかったかもしれませんが、馬が体調を崩すこともなく2戦終えられたので、ホッとしています。

細江まずは、チェアマンズスプリントプライズ(4月27日)ですが、サトノレーヴにとって2度目の香港遠征でした。

齊藤そうですね。昨年末の香港スプリント(3着)に参戦しました。それが、この馬にとっての初の海外遠征だったんです。この時は、ほんの少しですが現地についてから飼い葉食いが落ちていました。

細江あっ、だから当日は15Kg減だったんですか?

齊藤いや、前走のスプリンターズSで7着時は552Kgと馬体に余裕があったので、そこからコントロールしていったんです。

細江なるほど、飼い葉食いが落ちたのは別で、意識しての馬体減だったんですね。

齊藤今回のチェアマンズスプリントプライズの時も、飼い葉が一時的に落ちましたが、馬の精神状態は落ち着いていたので気になりませんでしたね。

細江移動してすぐは、ちょっと食欲が落ちちゃうんですね。大きな体ですけど、けっこう繊細。レースは後方追走から、直線で素晴らしい瞬発力を見せましたね。勝ち馬に離されたとはいえ、2着と奮闘しました。

齊藤モレイラ騎手がレース後、「ゲートの出が遅かったり、二の脚がつかなかったわけではなく。他馬が速かっただけだ」と言っていました。

細江4月27日にレースを終え、5月2日には現地を立ってドバイ経由で3日にイギリス、ニューマーケットのジェームズ・ホートン厩舎に到着しました。ここからの、調整はどのように?

齊藤レースまで1か月半ほど期間があったので、まずは環境に慣れることから始めました。日本の感覚では、いったん放牧に出すような状態を作って、そこからレースに向けて立ち上げるという形ですね。

細江馬にとって初めての場所だし、まずはリラックスから始めたんですね。

齊藤はい。僕自身はアイルランドで働いていた経験があるので、ニューマーケットが馬にとっていい環境であることは分かっていました。ただ、最初は馬にスクミが出ないように気をつけましたね。あとは、ニューマーケットは砂利になっている場所もけっこうあるので、ザ石しないように気を配りました。これも最初だけですね。現地に順応すれば、蹄は硬くなっていくので。

細江齊藤さんの経験が生きたんですね。

齊藤ただ、いったんリラックスさせてから乗りはじめたので、最初の段階ではアレって。

細江なんだか、動きが良くない?

齊藤はい。普段からノンビリした性格で、すたすた歩いたり、動いたりするタイプでもないんですけど、そういう感じでもなくて。疲れが残っているのかもと考えたんですが、どうも一度馬を緩めたからだったようです。日本ではレースを使って、放牧に出て、牧場である程度乗って、またトレセンに帰ってきますよね。今回はそのスケジュールではありませんでした。

細江想像以上にリラックスして、緩んじゃったと?

齊藤そうですね。ちょっと不安になりましたが、現地で初めてやった3週前追い切りの時点で、馬の気持ちがシャキッとして、トモの動きも良くなりました。

細江ひと安心ですね。

齊藤一度、時計を出したら力強さも出てきましたし、ホント安心しました。

ニューマーケットでの調整過程

細江その後の調整過程は、どのように?

齊藤ニューマーケットはたくさんの調教場があります。その中で、まずはフラットなコースで距離を乗ることにしました。これで、ベースができたら、ウォーレンヒルでの調整をはじめました。

細江ニューマーケットを代表する坂路コースですね。

齊藤ここでも、まずは1本から。その次のステップで1日2本やると時間をかけて進めていきました。2本こなすようになっても疲れた様子はなかったし、根を上げず頑張ってくれました。ここまで、こなせるようになってから、3頭で坂を上がることをはじめましたね。

細江その調教では、現地の厩舎にお世話になったんですよね。

齊藤はい。滞在を受け入れてくれたジェームズ・ホートン厩舎のサポートは本当に素晴らしいものでした。それも、順調に調整ができた一番の理由です。まず、ホートン厩舎の馬に前後についてもらい、サトノレーヴはその真ん中に入っての縦列調教に入りました。前の馬の尻尾にレーヴの鼻が付くぐらいの間隔で、普通キャンターをやっていました。

細江イギリスのタイトな競馬に耐えられるようにですね?でも、いざ走ると日本とスピードが違うでしょ?

齊藤キャンターとか遅いですね。それに、美浦での調教のようにハミをかけて、人間の脚を使って動かすというのではなく、前の馬にピッタリついていけばいいという。3頭一組になって、しっかりとテイルトゥーノーズで走らせるのが大事というスタンスなんです。

細江それって、サトノレーヴにとって初めての経験ですよね?

齊藤はい。縦列調教って、馬に忍耐力を植え付けるんですよね。そのほかにも、ニューマーケットにはいろいろなルールがあって、例えば主要道路を通っている馬の間に割り込んではいけないとか。どんなに待たされてもです。

細江馬の街ならではのルールですね。

齊藤そうですね。そこで調教をしていく内に、馬が我慢することを覚えて落ち着いていきます。まあ、環境の影響もあると思いますけど。

細江環境ですか?

齊藤トレセンでは調教コースに出るまでに、地下馬道で他厩舎の馬がきて譲り合ったりとか、狭い空間で調教をしていますよね。ニューマーケットは広い土地を使っているので、馬がそういう警戒心を抱く必要がないんです。

細江ピリピリしてアンテナを張らなくていいんですね。

齊藤ニューマーケットは下がコンクリートという場所も多いんです。馬が歩くと、カチャカチャって音がしますよね。でも、どの馬も全然、驚きません。まさに、アンテナを張らなくていいから、雑音が気にならないんだと思います。

細江なるほど、自分の仲間の蹄の音が安心につながるんですね。

レーヴと日々対話した中での変化

細江さて、この期間の調整の組み立てはどうしていたんですか?日本ならスタッフと相談したり、先生の指示があったりしますけど。

齊藤先生がくるまでは朝と午後と連絡して、その時に飼い葉食いや脚元の状態を話し、どこで調教するかなどを決めていました。

細江密に連絡を取り合っていたんですね。選択を間違えると、積み上げてきたものがマイナスになったり怪我につながったりします。そういえば、滞在中は馬場が硬かったんですよね。そうなると、調教に使うコースの選択は大事です。

齊藤雨が降らなくて芝が硬かったので、どこで追い切ろうって感じですよね。2週前追いの時から堀先生が現地にきていたんですが、考えに考え抜いていましたね。

細江たくさんのコースもありますしね。

齊藤はい。以前より、ポリトラックのコースが増えていましたね。経費や維持の面で多くなっているようです。調教のリスクを減らす意味でも、ポリトラックが一番使いやすかったですね。でも、ヨーロッパの競馬場はアンジュレーション(でこぼこ)があるので、いろいろなコースを経験させて、走りのバランスを身につけさせたいと思っていました。

細江経験を積んで、対応力を身につけるんですね。

齊藤普段、歩くところも、けっこうでこぼこしているので、着いたばかりのころは、つまづいたりしていました。そのうち、馬自身が気をつけて歩くようになって、蹄をちゃんと返さないとダメなんだって覚えて行くんです。僕も乗っていて、そんなレーヴの変化に気づきました。

細江なんか、レーヴと日々対話した中での変化。楽しそう。

齊藤楽しかったですね。レーヴというか、馬ってスゴイです。初めての環境にも対応して、人間の言うことを聞いて調教を積む。繊細で頭が良くて、柔軟ですごいなと改めて思いました。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2025年8月2日 に公開されました。

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