02. 長い付き合いから競馬のロマンが生まれると思う。どのオーナーにも、長く馬を大切にして楽しんでほしい。

去勢するも闘争心はそのまま
細江安田記念の当日、ロングランにとって理想の体重のイメージはありますか?
小島前走の478Kgから、少しプラスぐらいがいいかな。
細江少々、馬体重に変動があるタイプですよね?
細江レースでの疲労度によるのか、放牧から帰ってきたときの体重が一定ではないんだよね。プラス10kgで帰ってくることもあれば、プラス40Kgの時もある。それでも、いつも1か月ちょい前に帰厩して、追い切り3本というスケジュールを毎回こなしているから、あんまり体重の増減は気にしなくていいタイプなんだろうね。
細江ロングランって気性はどうなんでしょう?
小島若い時は、立ち上がったり手に負えないこともあったけどね。でも、セン馬になってからは、大人しいし全然違うよ。人の言うことはちゃんと聞く、なにより穏やかなんだよね。
細江2022年2月27日の4歳上2勝クラスの時点ではセン馬になっていて、その後に三木特別、レインボーSと連勝しました。
小島去勢で闘争心がなくなる馬っているでしょ?精神面が落ち着き過ぎちゃって勝てなくなるっていう。でも、ロングランは闘争心はそのままで、人に対しては穏やかになったんだよね。セン馬にならなかったら、重賞は勝てなかったかもしてない。ホント、セン馬になって成功した代表例といっていい存在だと思うよ。
細江それが、馬の運命ってものですよね。馬によってはボタンの掛け違いで、うまくいかないこともあれば、セン馬になって重賞を制す馬もいる。
小島いい方向にチェンジしてくれて良かったよ。
生まれた時から馬がいる環境
細江良太さんの競馬人生の中でも、いい方向にいった例なんですね。そういえば、良太さんは生まれた時から馬がいる環境なんですよね?
小島そうそう。競馬一家だからね。お祖父ちゃんは境勝太郎、父は小島太。父方は祖父が道営の装蹄師、父の従兄弟はメジロライアンやメジロラモーヌを担当していた小島浩三厩務員だしね。当然だけど、境征勝調教師は母の兄。弟2人も調教助手をしているし。
細江もう、スゴイ!
小島生まれたのも東京競馬場。昔は奥さんが厩舎仕事を手伝っていたでしょ?母親が厩舎作業をしていて産気づいて、そのまま馬房で生まれたんだって。東京競馬場の4コーナー辺りに厩舎があったから、テレビで映るたびに、「あそこで、俺って生まれたんだよな」って思うよ(笑)。
細江厩で生まれるって、キリストみたい。まさに、競馬の申し子ですね。
小島今年で54歳だから、馬と生きて54年になるんだよね。
細江騎手になろうと思ったことはないんですか?
小島小学生の時点で背が大きい方だったんだよ。だから、騎手っていう選択肢はなかったかな。でも、その家庭環境だからね。誰に強要されることもなく、自然な流れで馬の世界に入ったよね。
理想のホースマン像とは?
細江理想のホースマン像って、どんなイメージですか?
小島競走馬って厩舎の人間にとっては、かわいい存在でもあり、生活の糧でもあるんだよね。だから、イジメるとかは絶対にダメ。競馬は結果を出した馬だけが、その血を残せるわけだけど、そのためには無事に競馬をすることだと思うんだよ。そうすれば、次につながるわけだから。
細江そうですよね。
小島父の太が、そういう考え方でね。父の一番の欠点は馬に惚れすぎることだと思っているんだけど、とにかく馬に優しいんだよね。酒飲みで派手なイメージの人だけど、G1馬も未勝利馬も同じように大事にするんだよ。
細江どの馬にも等しく愛情を注ぐんですね。
小島そうそう。たとえば、親父はすべての競馬場に自分の手入れ道具を置いていたんだよ。担当の厩務員さんは、待機馬房でキレイにして装鞍所に行くでしょ。そこで鞍をつける前に親父が自分でブラッシングするんだよね。
細江最後はご自身で?
小島そうだね。パドックで前の馬のボロを踏んだ時なんか、その場で蹄を拭いていたよ。「かわいい我が子である馬の晴れ舞台だから、キレイにして出してあげないと」ってことだよね。
細江その精神を受け継いだんですね。
小島だから、担当馬の扱いを、戦績によって変えてほしくないなって思う。たとえG1に向かう馬が相手でも、平常心で接する。人間が入れ込んだら、馬が休まらないからね。
長く馬を大切にして楽しんでほしい
細江大舞台に行く時こそ、いつも通りって大事ですよね。
小島いい厩務員って、人より何か長けているっていうより、当たり前のことを、当たり前にできる人だよね。
細江良太さん、馬主さんともご飯に行ったり、いい関係ですよね?
小島うちの厩舎は、個人馬主さんが多いからね。プライベートでも付き合いがあるオーナーばっかりだね。
細江馬を愛す仲間って感じですね。
小島昭和っぽいけどね(笑)。でも、身内感覚だから、馬の状態が良くない時は「出さないほうがいい」ってちゃんと言えるのはいいよね。
細江コミュニケーションが取れるってことが、馬を守ることに繋がっているんですね。
小島そうだね。それに、いろいろと楽しいよ。一緒にセリで一喜一憂しながら買った馬が、うちの厩舎の馬として走るんだから。長い付き合いができるのが一番だよ。競馬のロマンって、そういうところから生まれると思うだよね。どのオーナーにも、長く馬を大切にして楽しんでほしいよね。
(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。
