01. 以前からずっと「芝のマイルを試したいんです」とお願いしていた。

重賞2連勝のきっかけは?
細江小島さんが所属する和田勇介厩舎のロングランが安田記念に参戦します。7歳馬で重賞2連勝をしてのG1参戦って、なかなかできることではないですよ!
小島うちは、ベテラン馬が多いね。アラタが昨年、福島記念を勝った時も7歳だったからね。で、8歳で天皇賞・春に初参戦っていう。
細江若い馬はポテンシャルに頼る面もありますが、年齢を重ねた馬は体力やメンタルの部分で、担当する人の腕が問われますよね。
小島長く現役を続けるには、馬が怪我をしないことが一番だよね。うちの厩舎は少しでも「良くないな」と感じたらレースに出さない。でも、目標のレースに向かって調教を積んでいると、どうしても出走させたくなるでしょ?この世界は使う勇気より、使わない勇気のほうが問われるんだよね。でも、そこは徹底しているかな。
細江で、ロングランも無理はさせずに、ここまできたんですね。
小島そうそう。ロングランは7歳だけど、いわゆる“使い減りしていない”んだよ。
細江たしかに、26戦しかしていないです。これまで7勝していますが、ここ2戦で一気に2勝を積み上げたきっかけは?
小島ダートから芝に舞台を戻したことだね。2歳新馬戦は芝で10着だった。その時、乗ったノリさん(横山典弘騎手)が、「固い馬だしダートだよ」って。それで、2戦目にダートを使ったら勝っちゃった。「やっぱり、ノリさんの言うことが正しかった」となって、その後はズ~っとダートってことに…。
細江良太さん自身は、適正はどう考えていたんですか?
小島芝のマイラーだなって。調教で乗るとパワーはあるけど、ダートって言い切るほどパワフルって感じじゃない。それに、走りは比較的軽いんだよ。だから、デビューは北海道の洋芝が良さそうってイメージしていたかな。
コツコツ実績を積み上げての重賞制覇
細江2勝目をダートで挙げてから、なかなか結果を出せませんでしたよね。
小島それで、もう一度、芝を使ってみようってことで、4歳の6月に三木特別(2勝クラス)を使うことになったんだよ。でも、半信半疑だったね。っていうか、半分以上が「疑」だった(笑)。
細江ところが、三木特別も、続くレインボーS(3勝クラス)も、見事な差し切り勝ちを決めました。
小島正直なところ、三木特別の勝ちは「マグレかも」という気持もあったんだよ。だから連勝をしてビックリした。そうそう、2連勝を決めた時、ノリちゃんが検量室にいて、「誰だよ、ダート馬って言ったの。乗り役の言うことなんて、信じちゃダメだよ」って(笑)。自分がデビュー戦で言ったことを覚えていたんだよね。
細江その年は小倉大賞典に参戦するなど、芝を舞台に善戦を続けました。
小島小倉大賞典は初の芝重賞参戦だったけど、自信があったんだよ。でも、結果は4着だった。次の福島民報杯も6着だし、まだこのクラスでは力が足りないのかなと。
細江その年末にディセンバーSに勝利して、年明けに再度参戦した小倉大賞典では2着でした。そして今年、3度目の挑戦で制覇ですよ!コツコツと実績を積み上げての制覇でしたが?
小島昨年の参戦時は1週前追い切りをやり過ぎた感じがあって、小倉に移動したら馬が固くなっていたんだよね。それでも、2着に来てくれた。今年はそれより状態が良かったんだよ。というか、これまでの3戦の中で一番といってもいい状態でね。年齢的にも小倉大賞典を制するなら、これがラストチャンスだなって。
細江その期待に応えてくれましたよね。後方から直線一気での差し切り勝ちでした。
小島アラタも、ロングランも同じ重賞に3度挑戦して勝ったからね。うちの厩舎の馬って、そういう感じなのかな(笑)。勝った晩にオーナーと次のレースの話をしたんだよね。これまで、芝の1800m戦を使ってきたけど、その後に都合のいい番組はない。っていうか、芝1600mの読売マイラーズCしかない。
いざ、マイル戦へ
細江そこで、いよいよマイル戦にとなったんですね。
小島オーナーには、ずっと「芝のマイルを試したいんです」とお願いしていたからね。もう楽しみでしかなかったよ。
細江では、中間も順調で?
小島まず、いったん山元トレセンに放牧に出て、レースの1か月ちょっと前に帰厩した。これが、ずっと続けているパターンなんだよ。で、帰ってきて3本追う。これも、いつも通り。
細江スケジュール通りに、調整を重ねられたんですね。レースも見事でした。一見、伸びていないようで、伸びての勝利でした。跳びの大きさもありますが、見ていると不思議な直線でした。さぁ、そして待望のマイルでの勝利となりました。
小島勝った瞬間、「やっぱり、マイルじゃん!」ってなったね。オーナーが「良太くんの言っていたことが証明されたね!」って言ってくれて。うれしかったよ。岩田くんが、うまく乗ってくれたんだよね。
細江初の1600m戦を制して、いよいよG1の安田記念へ!となったんですね。
小島いや~、そんなにスパッと決まったわけじゃ…。
細江なにか、懸念材料でも?
小島マイルはいいよね。でも、左回りなのが…。これまで、左回りは3回使っているけど、全部2桁着順なんだよ。調教で左回りを走らせて窮屈に感じることはないから、何でなんだろう…。
細江でも、東京は新馬戦と八王子特別の2100mのダートだったし、新潟大賞典は不良馬場でしたし…。
小島たしかに、それぞれに左回り以外の理由はあるんだよね。
かき込む力がスゴイ
細江それに、本来は東京のような長い直線は向いていそうです。岩田騎手が乗っての1週前の動きも良かったですね。あの、追い出してからの前脚の伸びやかさは素晴らしかったです。
小島そうでしょ。ウッドコースで追うと、11秒台の時計は、いつも出せるんだけどね。馬場が深いほど苦にしないで走ってくる。かき込む力がスゴイんだよね。まあ、それがダート馬だって、思われていた理由なんだろうけど。
細江馬場が重いとバランスをを崩す馬が多いですが、ロングランは体幹がしっかりしているんでしょうね。
小島そうそう。緩さはあるけど、ブレがないんだよね。
細江岩田騎手の感触は?
小島まだ、少し重いとは言っていたけど、左回りへの違和感もないって。ここから、本番までは微調整だよね。7歳で重賞2連勝するってことは、今がこの馬にとっての旬なんだと思うんだよ。岩田くんもG1を勝ちたい!って気迫のある人だし、チャンスが巡ってきたときに、確実に仕留めるってイメージがあるんだよね。騎手の気合と腕にも期待しいるよ。
細江それに、今開催の東京は力のいる馬場になっています。
小島ロングランにはプラスだよね。さらに欲を言えば、金、土曜日と雨が降ってくれるとな~。そうなると、当日は良馬場発表にはなるけど時計は掛かりそうだよね。で、外差しが利いてくれるとよりいい。今の東京競馬場はそれが十分イメージできる環境だし、ロングランにとって明るい未来として思い描けるのはいい材料だと思うよ。
(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。
