ゲスト
ミュージアムマイル号担当 嘉堂 祐也さん 栗東・高柳大輔厩舎

01. 初のG1での口取りは、テレビで見たことある光景が目の前に広がっていて夢を見ているようでした

初のG1での口取りは、テレビで見たことある光景が目の前に広がっていて夢を見ているようでした
細江純子さんをインタビュアーに迎えてお届けする『イケメンホースたち〜担当者が思う愛馬の素顔〜』。今回のゲストは、高柳大輔厩舎で皐月賞馬ミュージアムマイル号を担当する嘉堂祐也さんです。前編ではデビューから皐月賞優勝までのミュージアムマイル号の成長過程を振り返っていただきました。

ミュージアムマイルの最初の印象は?

細江日本ダービーが、いよいよ今週末に迫りました。嘉堂さんが担当する、ミュージアムマイルには2冠目がかかっています。まずは、皐月賞制覇、おめでとうございます。

嘉堂ありがとうございます。

細江強い競馬での勝利でしたね。道中のポジショニングも素晴らしかったですし。

嘉堂スタートを出てくれたのが良かったですね。スッといい位置に入っていけました。

細江ミュージアムマイル、最初出会った時、ここまでの馬になるという印象はありましたか?

嘉堂検疫厩舎に迎えに行ったんですが、大人しいな~と。やんちゃでもないし、どちらかと言えばボ~っとしている感じですね。歩きものんびりだし、逍遥馬道では、つまずくことがあるぐらい。馬っていうより牛っぽい。だから、まったく手がかかりませんでした。

細江では、ゲート試験までは順調に?

嘉堂そうですね。ゲート試験は一発で受かりましたが、やっぱり上手ではなかったですね。

細江その頃から、ゆっくりでしたか?

嘉堂音が気になるのか、一瞬ですが頭を上げてしまうんですよね。

細江デビュー戦(8月24日、中京・芝1600m)は、大きく遅れてしましましたね…。

嘉堂僕は函館出張だったので後で見ました。歩くように出たので、その時点で「あっ、もうダメだ」と。でも、その後、スゴイ勢いで追い上げて行きましたよね。真っ直ぐキレイな走りだったし、これは走るのでは?と思いました。

細江結果は3着でしたが、能力は見せましたもんね。

嘉堂そうですね。乗った幸騎手が「来年ぐらいには、良くなりそう」と言ってくれました。

朝日杯SFまでの過程を振り返って

細江それは、期待が高まりますね。そして、10月に京都での2戦目で初勝利を挙げました。

嘉堂この時も、もう1頭の競馬があったので、ミュージアムマイルは厩舎のスタッフがついて行ってくれました。VTRでレースを見ましたが、1戦目のようなボォ~とした感じは抜けていましたね。

細江スタートもキレイに出ましたしね。ただ、直線で抜け出すのに少し手間取りましたが、抜け出してからはスゴイ脚で。

嘉堂そうですね。それと、幸騎手が道中で抑えているのを見て、ハミ掛かりも良くなっているし、トモも、しっかりしてきたなと思いました。

細江続く黄菊賞では、C.デムーロ騎手とのコンビでした。

嘉堂ここで、初めて一緒に競馬場に行きました。装鞍所で他馬が厩舎の壁を蹴る音などを気にしたのか、気が入っているなという感じでしたね。この時はゲートまでついて行ったんです。放馬があって仕切り直しになり、かなり待たされましたが、それでも大人しかったですね。

細江そういう時は集中力を切らす馬も多いですが、ミュージアムマイルはハートが強いですね。スタートして、すぐに挟まれましたが、早めに動いて直線後方から追い上げた脚はすごかったです。

嘉堂ずっと、操縦性が高いとは言われていました。乗り手の言うことを聞くので、動けと指示されれば動くんです。ここを勝ったことで、周囲から「けっこう、上まで行けるんじゃ」と言われ始めました。

細江強かったですからね。ここが2000m戦で、次の朝日杯SFは1600mと距離が変わりました。

嘉堂距離短縮なので、スタートが心配でした。案の定、ノンビリでしたよね。ただ、そもそもバーンッと出るタイプではないので、後方からの競馬になるだろうとは思っていました。

細江すぐに内に潜り込んで、アドマイヤズームを射程に入れる位置まで行き中団をキープしました。

嘉堂あのリカバリーはすごかったですよね。あれで、うまく脚が溜まったんだと思います。最後に脚も使ったし、2着でしたが力があるところは示せました。

放牧から帰ってきて気が強くなっていた

細江年明けは弥生賞ディープインパクト記念を目指すことになりました。

嘉堂放牧から帰ってきて、背が伸びたのか「デカくなったな~」と思いました。それと、気が強くなっていましたね。

細江あの、大人しかった馬が?

嘉堂はい。立ち上がったりして、「こんなに怒ることがあるのか」とビックリするぐらい。でも、これまでが大人し過ぎただけで、牡馬らしくなったな~と思う気持ちのほうが強かったですね。当該週に幸騎手が乗って、「すごくイイ状態だ」と言ってくれました。

細江中山への長距離輸送でしたが、その辺りはどうでした?

嘉堂平気でしたね。滞在馬房でも大人しかったですよ。

細江当日のパドックは、グッと闘志を秘めているのを感じる周回でした。仕上げもG1並の素晴らしさで。

嘉堂雰囲気が違いましたよね。気合が入っているなと感じました。

細江ただ、枠は14頭立てで、7枠11番と外めでした。序盤の位置取りが後方になったのは、もったいなかったですね。

嘉堂外めの枠でしたし、横一列のスタートで下げざるを得なくなったのは仕方なかったんじゃないでしょうか。枠が違えば、また対処の仕方もあったかもしれませんけど。

細江終始外、外で一番脚を使いましたし、結果こそ4着ですが負けて強しの内容でした。

嘉堂前日の雪で馬場がドロドロだったので、時計が掛かっていました。けっこう、しんどい競馬だったでしょうね。

レースレコードで皐月賞優勝

細江ここから、いよいよ皐月賞に向かうわけですが、中間はどうでした?

嘉堂1本目の調教から動けていましたし、これまでと全然違いましたね。状態は上がっていると感じました。でも、また中山への輸送になりますし、やり過ぎないように徐々に仕上げていきました。1週間の追い切りが、すごく良かったので、今度こそ行けると思いました。

細江レースは8番手で進めていましたが、向正面で他馬と接触というアクシデントがありました。

嘉堂それを、はね返していましたよね。あれを見て、気の強さは相当だなと感じました。

細江そこで、いったん下がりましたが、直線は外から一気に伸びて1馬身半差の勝利。1分57秒0の時計はレースレコードでした。

嘉堂もう、うれし過ぎましたね。ゲートについて行ったので、帰りのバスのモニターで見ていました。小さなモニターですし、ミュージアムマイルが、どこにいるか分からなかったぐらい。でも、直線で前と並ぶ間もなくシュッと伸びて行くのを見て感動しました。でも、その時はビックリのほうが大きくて。検量室前に戻ってきたモレイラ騎手が手を差し出してくれて、握手をしたんです。それで、「あぁ、勝ったんだ」と、ようやく実感しました。

細江初のG1での口取りでしたが。

嘉堂テレビで見たことあるなと(笑)。その光景が、目の前に広がっているし、夢を見ているようでした。馬も一生懸命走ってきましたし、本当にうれしかったですね。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2025年5月27日 に公開されました。

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