ゲスト
サトノシャイニング号担当 小川 雅之さん 栗東・杉山晴紀厩舎

01. 厩舎の扉を開けた時「これは、いい馬だな」と感じました

厩舎の扉を開けた時「これは、いい馬だな」と感じました
細江純子さんをインタビュアーに迎えてお届けする『イケメンホースたち〜担当者が思う愛馬の素顔〜』。今回のゲストは、杉山晴紀厩舎でサトノシャイニング号を担当する小川雅之さんです。サトノシャイニング号はどんな馬? 前編ではレースを振り返りながらサトノシャイニング号の印象についてお聞きしました。

サトノシャイニングの第一印象は?

細江6月1日の日本ダービーまで、もう少しです。小川さんの担当馬、サトノシャイニングも参戦予定ですね。この馬に出会っての第一印象は?

小川検疫厩舎で会ったのが最初で、厩舎の扉を開けた時「これは、いい馬だな」と感じました。品があって、垢抜けているんですよ。触っての筋肉の質も良かった。

細江かなりの好印象ですね。デビューに向けての調整はいかがでしたか?

小川多少やんちゃで口向きなどに課題はありましたが、ゲート練習はスムーズでした。ポンッと出て行くとき、さほどスピードも出ていないのにアクションがいい。これは来年を考えながらやらないと思いました。

細江大きな馬ですが、素軽くて俊敏なんですね。

小川それに、体の使い方も良かったんです。だから、コーナーを4つ回るような、2000mから始めたいと思いました。そのためには、我慢することを教えなくてはいけないので、乗り手は苦労したようですよ。

細江初動からクラシックを意識できるポテンシャルだからこそ、最初はどの距離でデビューするかも大事ですよね。

小川ゲート試験に一発で受かって、放牧に出たんです。帰厩してからの調教も予定通りだったので、スタンドにいるカメラマンさんたちに、「この馬、走るんや」と言っていました(笑)。実際、モノが違うと感じていましたからね。少し頭は高いけど気にならない。それより、実戦で我慢が利くかが心配でした。うまく、育てないとスピードがあるだけに、自爆型になる可能性がありますから。

細江では、テンションを上げ過ぎないように?

小川そうですね。運動で入れ込んだら、調教もうまくこなせないですしね。

サトノシャイニングと関係性ができてきたなと感じた時

細江そういう時は、どんなことに気を配るんですか?

小川まず、いかに馬房でストレスなく過ごすかですよね。そのためには、馬房で一番長く一緒に過ごす、僕を信頼してもらわないと。馬が人間に向き合って、コミュニケーションが取れるようにするんです。馬房の中で気を許してくれるようになったら、今度は外に出たときにどうするかです。洗い場や馬房周辺では、他馬もいますから、思わぬことに出くわしますし。

細江ひとつ、ひとつクリアさせていくんですね。

小川でも、何かあったら一発で元に戻る…どころかマイナスになることもありますから。

細江構築するのは難しいけど、崩れるのは簡単。サトノシャイニングと関係性ができてきたなと、思ったのはどんな時ですか?

小川「下がってね」と言うと、ちゃんと聞いてくれるようになりました。僕が真正面に立っているか、斜め前に立っているかで、何を求められてかが理解できるようにもなりました。

細江馬が小川さんの要求していることが、分かるようになってきたんですね。

小川そうなれば、馬房から出た時に車やバイクが通ったり暴れる馬がいても、僕がいるから安心となりますよね。そこから、また次の一歩に進めます。

圧巻の強さだったデビュー戦

細江そうやって、馬と会話をしながら向かえたデビュー戦は圧巻の強さでした。中京・芝2000m戦で2、3番手追走から、直線で一気に脚を伸ばして1馬身半差での勝利でした。

小川勝てるとは思っていたので、そこは良かったのですが、行きたがる素振りを見せていました。1戦目からこれでは、ちょっとな~と。

細江課題が見つかったということですね。2戦目は東京スポーツ杯2歳Sでした。

小川9頭立てとはいえ、大外枠を引いた時点で「アララッ」と。予想した通り、しっかり引っかかった。しばらくして落ち着きましたけど、こんなレースを続けたら大きなところは勝てないと。とはいえ、ゲートを出てすぐに後肢を落鉄した状態で走っての2着でしたからね。

細江おしゃっている意味が分かります。この一戦は心配が現実になったレースで、課題が…。

小川みんな、最後まで勝ち馬に食い下がったとかイイところを上げてくれましたが、我慢させるように教えてきたのに、課題は残ったままになりました。まあ、ゲートをうまく出たので、しかたない部分はありますよね。押さえようとする鞍上と、道中で喧嘩になるより良かったとは思います。

細江ここで、いったん放牧に出ましたが、あのままレースを使っていたら、もっとエキサイティングするようになっていたかも、しれないですね。

小川クラシックに向けて賞金を加算したいと考えたら、使い続けた可能性はありましたよね。でも、そこをウチの先生は踏み止まってくれました。

細江復帰戦は年明け2月の、きさらぎ賞でした。ここから、西村淳也騎手とのコンビとなりましたね。

小川ここも、大外枠だったんですよ。それに、京都の芝1800mはスタートから真っ直ぐが続くコースなので苦労するだろうなとは思いました。でも、序盤にかかったけど、すぐに落ち着いて後方で控えられましたよね。

細江きれいに折り合いっていました。10頭立ての後方6番手の競馬で3馬身差の完勝です!

小川持った力を発揮できたときは強いんです。レースを終えて引き上げてきたとき、騎手の第一声は「折り合えた!」でした。乗った本人が、一番驚いていたようでしたね(笑)。たぶんですが、スタート地点が向正面で、奥は宇治川の堤防です。それで静かなのが良かったのかなと。でも、後方で競馬はできたけど、最終コーナーから直線は外を回ったでしょう? 今後、内枠を引いて包まれたら、どうなるんだろうと思いました。取り囲まれたらパニックになるかもって。

細江あらっ? あまり気の強いタイプじゃない?

小川ドンッと構えているタイプではないですね。だから、予期せぬことに出くわしたら、自分を見失う可能性があります。しかも、大柄でストライドが大きいので、自分のリズムで走れなかったら…と。

皐月賞の振り返り

細江もまれた経験もないですもんね。そして続く皐月賞でも、またピンク帽。18頭立ての8枠16番と外枠でした。

小川しかも、今回はスタンド前発走で、お客さまの歓声が大きく聞こえるでしょ。これは厳しいなと。それに、今回は中山だから長距離輸送もあって、滞在馬房に1泊する。初めての競馬場で、初めての装鞍所にパドックと、ゲートに入る前から戦いが始まっていました。

細江返し馬、かなり掛かっていて、厳しい状況とみていました。

小川そうなんですよ。中山ってスタンド側から4コーナーに向かっていくと、下り坂になりますし…。

細江スピードが出ちゃいますよね。

小川実際、返し馬で勢いがついた状態で折り合いを欠いていたのに、1コーナー過ぎで他馬にぶつけられました。若馬には厳しい競馬になったと思います。

細江そうですね。結果は5着でした。

小川たしかに掲示板には載れました。でも、最後は力つきましたね。レース後にジョッキーも、「坂で止まった」と言っていました。でも、スピードがあるところは見せてくれたと思っています。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2,000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2025年5月26日 に公開されました。

×