01. いよいよ皐月賞、入厩舎当初のクロワデュノールの第一印象は?

クロワデュノールの第一印象は?
細江いよいよ、皐月賞が近づいていましたね。間宮さんが担当する、クロワデュノールはデビューから3戦3勝で臨みます。入厩舎当初から、この馬を担当なさっているんですよね。第一印象はどうでしたか?
間宮大きな馬だな~と思いましたね。しかも、すごく大人しい。
細江攻めが進んでからはどうでしたか? たとえば、飼い葉は食いとか。
間宮飼い葉は落ちませんでしたね。うちの厩舎は八升と、もともと多めに与えるんですが、減っても半升程度を残すぐらいでした。ゲート試験も2、3回の練習で合格しました。今は牧場でゲート練習をしてきますし、ここで手こずることは、あまりないんですけど。
細江では、着実に新馬戦に向かっていったんですね。
間宮はい。ただ、周囲の期待が高いのが…。調教でも自分から進んでいくようなタイプではなかったですからね。促しても、前について行けないぐらい。でも、息づかいは良かったんです。デビュー直前の追い切りに(北村)友一が乗って、「これなら行ける」と言っていました。
細江デビュー戦は栗東から東京への輸送競馬でした。
間宮輸送は大丈夫だったんですが、当日のパドックでナゼか後ろの馬を怖がってしまって。
細江あぁ~、それで立ち上がっていたんですか。
間宮そうなんです。あれで、すごく気性が激しい馬のように思われちゃったんですよね。本来は、すごく大人しいんですけど。
細江テレビとかでは、そこだけ繰り返し放映されたりしますもんね。レースは直線で後続を大きく引き離しての叩き合いで相手を競り落とす強い競馬でした。しかも、東京・芝1800mで1分46秒7!
間宮レース後、みんなから「エライ、速い時計やな」と言われました。でも、僕としては、勝てて良かったとホッとしたという感じでしたね。
ギリギリ間に合った東京スポーツ杯2歳S
細江2戦目に東京スポーツ杯2歳Sに参戦することになりましたが。
間宮放牧先から、かなり体重を増やして帰ってきたんです。成長分もあったとは思いますけどね。帰厩して1週間で17kgほど落としました。それで、僕としてはギリギリ間に合ったかな…という感じでしたね。手先が重いし、走っててシンドイんだろうなと思いました。
細江当日の体重は24Kg増の504kgでした。この時のパドックは、新馬戦のようなことはなかったですね。
間宮斉藤(崇史)先生に相談して、パドックだけメンコをすることにしました。まあ、もともと大人しいので必要ないのですが念のためです。
細江心配ごとは多かったですが、レースは見事でしたね。最初こそ行きたがっていましたが、道中は我慢をさせて直線でムチが入るとグッと脚を伸ばしました。
間宮でも、本来の走りじゃないというか…。返し馬の時点でも自分のバランスで走れていませんでした。前のめりになってるなって。動き切れていない分、ハミに頼っていたんですよね。
細江あっ、重心が前にきちゃってるんですね。動けなくて体が起こせないから、どうしてもハミに頼ってモタれちゃう。
間宮そうそう。でも、勝てて良かった…と思ったんですが、レース後の検体で、おしっこが出なかったんです。たまに、ありますよね。コズんだわけではないけど、近い状態になること。そのせい、だったんじゃないかと思います。東京の滞在馬房に戻ってからも、ソワソワして落ちつきがありませんでした。
細江相当厳しい競馬だったということですね。
間宮そうでしょうね。それに、帰りの馬運車で落鉄していました。この馬は、脚をそろえて立つので、自分でふんでしまうんでしょうね。片方は取れていて、もう片方は取れかけていました。釘を踏んだら大変なので、サービスエリアですぐに外しました。実は入厩して1、2日後にも落鉄したことがあったんですよ。
細江もともと、外れやすいんでしょうか。普段はなにか、防止策をしているんですか?
間宮今は洗い場ではワンコ(蹄のプロテクター)をしています。
復帰した北村騎手と臨んだホープフルS
細江その後は、ホープフルSに参戦となります。今度は、GⅠ挑戦となりました。いったん短期放牧に出て、帰ってきてはどうでした?
間宮しっかり、動けていました。
細江2連勝馬ということで、当日のオッズは1.8倍の一番人気。でも、今度は動きもいいし、自信を持って送り出せたと?
間宮いやいや、プレッシャーしかないですよ。競馬の世界に入って20年ほどになりますが、担当馬がこれほどの人気になったことはありませんでしたから。
細江今回も課題がありましたよね。初の中山、2000mへの距離延長でコーナー4つと。
間宮折り合いはつくし、心肺機能が強いので距離の心配はしていませんでした。ただ、右回りがどうなかと。2週前追い切りでは、うまく左手前に替えられなくて、直線は走りきれませんでした。だから、当該週追いは、そこを課題にしたんですが、クリアしてくれましたね。
細江若駒の時の手前に関する人間の操作って、その匙加減というか、判断が難しいですよね。
間宮僕は“無理に手前を替えてもなくてもいい派”なんです。もちろん、替えるように促しはしますが、無理をすることで走りのバランスが崩れるかもしれませんから。
細江年齢的には、まだ成長課程ですしね。さて本番ですが、また序盤は行きたがりましたが、うまく北村騎手が動ける位置に持って行きましたね。外めの7番手を追走していきました。
間宮外にいったのは、包まれたくなかったんでしょうね。でも、思ったより後ろだな。3番手くらいを想像していたので。
細江でも、向正面でファウストラーゼンがまくって行ったときに、ついていったのは絶妙でした。4コーナーでは3番手まで順位を上げ、直線の伸びはスゴかったです。
間宮結果的に、あそこで動いて良かったんでしょうね。あとで友一に聞いたら、直線でちゃんと手前も替えていたそうですよ。もう勝ってホッとしました。今でも、GⅠを勝ったという実感はないですけど。
細江北村友一騎手にとっても、大きな勝利になりましたよね。GⅠ制覇は20年のクロノジェネシスでの宝塚記念以来。2021年にレース中の落馬で背骨などを折る大怪我をして、22年に復帰してからも苦しい時期が続きましたから。
間宮乗鞍に恵まれなかったり、思ったように乗れない悔しさやつらさは、本人にしか分からないですよね。とくに友一は感情を表に出すタイプではないので余計に分からなかったんですが、ホープフルSを勝った時は泣いてました。普段の淡々としている友一を知っているのでビックリしました。あれだけの怪我をしたら、復帰を諦める人もいますよね。でも、友一は戻ってきた。それで、GⅠを勝つなんて、相当なことですよ。本当に、良かったと思っています。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。
