ゲスト
ジュンブロッサム号担当 吉田 頼正さん 栗東・友道康夫厩舎

01. 男の子だけど、なんかもう~ギャル?っみたいな

男の子だけど、なんかもう~ギャル?っみたいな
細江純子さんをインタビュアーに迎えてお届けする『イケメンホースたち〜担当者が思う愛馬の素顔〜』。第4回目のゲストは、昨年富士ステークスで重賞初制覇を飾ったジュンブロッサムを担当する友道厩舎・吉田頼正さんです。

男の子だけど、なんかもう~ギャル?っみたいな

細江2024年は大活躍の友道康夫厩舎した。吉田さんが担当する、ジュンブロッサムも富士Sを制して、厩舎躍進の一翼をにないました。この馬にとって、念願の重賞初制覇となりましたね。おめでとうござます。

吉田ありがとうございます。

細江デビュー前から、この馬の担当をなさっていますよね。初対面の時のことは覚えていますか?

吉田もちろんです。検疫厩舎に迎えにいったんですが、なんかもう~ギャル?っみたいな。

細江ギャル?

吉田そうそう。キャピキャピしてるんです。男の子なんですけどね。若い牝馬のような元気さがありました。馬房でクル~って回って「遊んで、遊んで~」って仕草をみせたり。

細江えぇ~、かわいい!

吉田今でも、朝イチからそんな感じですよ。まずは、馬房から顔を出してのお出迎えは必ずです。あとは、うちの厩舎は朝の掃除の時、馬房の端に飼い葉前の軽食のようなものを置くんです。それをモグモグしていたと思ったら、掃除でかがんでいる僕の背中に顎をおいてきたり。

細江ハグしてるみたい。甘えん坊ですね。

吉田ホントそうです。手が離せなくて、僕がなかなか相手ができないと、「なぁ~んだ」って感じで、またモグモグ。で、また顎を置いての繰り返しです。

細江こんな、仕草をする馬っているんですね。

吉田僕も、こういう馬は初めてです。

細江名前もかわいいし、ホントに女の子みたい。いや、ジェンダーレスの時代になんですが。

吉田いやいや、僕もたまに思います。体重も新馬戦のときは458Kgと小柄でしたし、正直「君はなんで、男の子なんだい」って(笑)。

デビューまではいかがでした?

細江女の子なら恋人同士みたいな関係ですね。普段は、なんて呼んでいるんですか?

吉田ちょっと中性的な感じもするので、「ブロちゃん」と呼んでいます。

細江いいですね~。そんな可愛いブロちゃんですが、デビューまではいかがでした?

吉田ゲート試験には1回で受かりましたし、順調でした。ただ、調教で乗った助手さんによると、乗りやすくはないようでした。ハミを噛んでしまうので、普段の攻め馬でも、持っていかれるぐらいだそうで。

細江ハミがかりのいい面があるんですね。そのデビュー戦は東京ということで、競馬場には前日入りですよね。

吉田あの時は、担当するもう1頭が他場で競馬だったので、東京には他のスタッフに行ってもらいました。ついていてあげられなくて申し訳ない気持ちはありましたね。正直なところ勝ってほしかったですが、2着と頑張りましたし、次こそはと思いました。

細江負けたとはいえ、上手な競馬をしましたもんね。2戦目でシッカリ初勝利を挙げ、共同通信杯へと進みました。結果は4着でしたが、現在の“強い5歳世代”を相手に、よく食らい付きました。体も大きくなって18kg増の474kgでの参戦でしたが。

吉田成長分なので、太め感はなかったですね。この頃は、飼い葉も食べてくれていましたし。

細江厩務員さんとって、馬の食欲への心配は尽きないですよね。

吉田そうですね。ジュンブロッサムの場合、デビューの頃の飼い葉食いは割と良かったんです。でも、だんだん落ちていきました。だいぶ悩みましたね。男の子なのに、なんで食べてくれないんだろうって。

細江牝馬のほうが、食の細いことが多いですもんね。

吉田実はアーリントンC(4着)の後、メンコを外そうかという話があったんです。負けはしたけど、道中で我慢させて、最後にあれだけいい脚を使いましたよね。あんな競馬もできるんだなと思いましたし、レースの面では収穫がありました。でも、この頃から飼い葉が落ち始めたんです。

メンコを取るか取らないかの悩み

細江新しい面は出たいいレースでしたが、馬自体にメンタル的にあったんですかね。

吉田そうかもしれません。メンコを取ったら、もっと飼い葉が減るんじゃと心配でした。気性は大人しいですし、メンコなしでも走りには問題はないんです。でも、食欲を優先したかった。

細江そこは、譲れないこだわりだったんですね。

吉田はい。でも、いまだに外すのが正解か、今のままが正解か悩んでいます。ひょっとしたら、アーリントンC後にメンコを外していたら、惜しい競馬を繰り返すことはなかったかもって。でも、勝てたとしても、飼い葉食いは落ち続けたとは思います。

細江しっかり食べるからこそ、調教で負荷もかけられる。2、3歳は特に、それが身になっている時期ですもんね。悩ましいところです。その後はレースの条件も、コースも一戦ごとに替わっていきましたよね。中京での3歳1勝クラスは1600m(4着)、次は新潟の出雲先特別で1800m(1着)、神戸新聞杯(4着)は芝2200mでした。

吉田3歳のこの時期はクラシック参戦も視野にありますし、しかたがない部分もあります。厩舎でも適性に悩んでいたんでしょうね。でも、どんな条件でもいい状態には持っていこうと考えていました。

細江23年3月の館山特別(2勝クラス)の2000mを最後に、休み明けの7月、豊栄特別(2勝クラス)からマイル路線に絞ってきました。さっそく効果が現れて、2、2、1、5着と連続好走。5歳となった24年6月の水無月Sは先行勢から離れた中団5番手を追走し、直線で鋭く伸びて3馬身差の勝利。強い競馬でした。

吉田いい勝ち方でしたし、京都の1600mというマイルチャンピオンシップと同じコースで勝てたのは大きいと感じました。

細江この時は、飼い葉はしっかり食べていたんですか?

吉田はい。それに、状態は抜群でした。

飼い葉を食べてもらうための工夫

細江逆に食べなくて、困ったレースは何ですか?

吉田23年3月の館山特別(6着)でしょうかね。中山への遠征だったので、どんな飼い葉を持っていくか悩みました。栗東では食べていたものも、環境が変わったら食べないことってありますよね。だから、保険をかけました。いろいろな種類を、持っていったんです。

細江えぇ~、そんな大変じゃ...。

吉田とにかく、食べてほしかったですから。パレットに絵の具を出すみたいに、少しずつ、食べるものだけを与えることにしました。飼い葉をやって30分後に見に行って、残していたら他の飼い葉に変えました。2種類与える場合でも、組み合わせによっては食べたり、食べなかったり。どんな組み合わせがいいのか、これは今でもやっています。

細江ブロちゃんが、喜ぶ飼い葉の組み合わせを、常に模索なさっているんですね。でも、それじゃ吉田さんが休めない...。

吉田遠征中はコンビニにご飯を買いに行くぐらいですね。あまり、厩舎から離れません。

細江その土地の名物を楽しみに行くとか...。

吉田ないです、ないです(笑)。

細江それも、すべてブロちゃんのためなんですね。大事にされているし、ステキです。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2025年1月16日 に公開されました。

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