ゲスト
内藤裕司 さん JRA馬事部生産育成対策室 室長

02. 馬主の皆様や生産地にも還元をして、強い馬を作っていきたい

馬主の皆様や生産地にも還元をして、強い馬を作っていきたい
JRA馬事部生産育成対策室室長・内藤裕司さんをゲストにお迎えしてお届けする梅田陽子の「ホースと共に!」。JRAでは「強い馬づくり」のため生産育成研究や生産育成技術の開発を行い、成果の普及、啓発、生産育成分野のレベルアップを図っています。後編では、育成馬の購入から育成、「JRAブリーズアップセール」への上場に至るまで、その過程と具体的な取り組みについてお聞きしました。

「ホームブレッド」は新規限定セッションを中心に上場

梅田自家生産の上場馬は、その10頭の中からの子なのですね。今年はどんな馬がいるのでしょうか?

内藤ここ(セリのカタログ)に書いてある「ホームブレッド」というので、例えばこの上場番号「1番」がそうです。新規の方限定セッションということをやっていまして、子供の頃の生まれた時からのデータを我々は持っているのですよ。そうすると病歴などを全部知っていますので、それを本当に安心してお示しできるというところもあって、「ホームブレッド」は新規限定セッションを中心に上場させてもらっています。

梅田そうなのですね。このセリの始めの方の10頭はどのようにして選んでいるのか、選定基準などがあるのかなと思っていたのですが。

内藤基本は「ホームブレッド」ですね。ただ、今年から競走馬資源委員会、JOA(日本馬主協会連合会)からご助言をいただきまして、「もう少し新規の方を“厚く”したらいいのではないか」というご意見をいただきました。これまでは8頭だったのですが、10頭に増やすということと、あとは上場番号「3番」などがそうなのですが、市場購買馬中から“目玉候補”を新規馬主限定セッションに組み込んでいます。今までも市場購買馬を入れていたのですけど、安さ、値段的に結構お安い馬を入れていたのですが、それを今年から少し変えまして、値段はちょっと高いかもしれないけれども、順調に調教ができていて、たぶん騎乗供覧でも時計が出るであろうというお薦めの馬を入れる形にして、新規の枠を増やしていますね。今までは自家生産の「ホームブレッド」で比較的リーズナブルな馬を選んでいたのですけど、それだと「ホームブレッド」だけでは枠が足りなくなってしまうのです。新規限定セッションを10頭にして、そこで「ホームブレッド」だけでは足りない分を市場購買馬で埋めていたんですが、その市場購買馬を今年から少しレベルアップしました。

梅田今年の新規限定セッションの市場購買馬は何頭ですか?

内藤2頭入れております。「3番」と「7番」になります。

梅田「ホームブレッド」ということは、自分たちの手で育てていますし、いろいろなことが分かっている馬たちですよね。

内藤そうですね。他の馬に比べると、やはりそうなります。手をかけているので、操縦性であるとか、しつけの方は、完璧に近いようなことができているのではと自負しております。

その後の競走成績については、常に注目しているところではあります

梅田新規限定セッションというのは、いろいろと新規の馬主さんに対してサポートをしていくというのも、このブリーズアップセールの目的の一つなのだと思います。買った後のサポートは、どのようになっているのでしょうか?

内藤中央競馬に入っていただきますと、美浦と栗東の診療所とのデータ共有をしていますので、 何かあった時にそのバックアップはしやすくなっております。

梅田そうなのですね。「馬を買って、はい終わり」というわけではないですね。

内藤やっぱり、その競走馬の成績を検証するというところもありますので。協力をいただけるところであれば、引き続きデータ取りの協力をしていただいています。その後の競走成績については、常に注目しているところではあります。

梅田なるほど。また市場購買馬については、いろいろと他のセリで落札をして、ここに至るまで連日の会議をして計画を考えていくという感じなのでしょうか?他のセリで馬を落札して、何月頃からこう検討して、どんな会議して、そしてまたセリに参加して育ててという、年間スケジュールみたいなものが、どんな感じなのかなって気になります。

内藤我々にとって一番大きいのが、このブリーズアップセールというところで、そこで馬を売りますよね。しかし残念ながら、売れ残ってしまった馬であるとか、セールの時点で故障している馬については、6月に「コンソレーションセール」というのをやります。

梅田へー。それはどこでやるのですか?

内藤日高育成牧場になります。それは動画配信をして、インターネットで落札していただくという形です。それでこの一つの世代の売却がほぼ終わるという形になります。そして次は6月の末から1歳馬、来年のブリーズアップセールに上場するための馬のセリが始まるんですよ。それが九州から始まって、東北、セレクトセール、セレクションセール、サマーセール、セプテンバーセール…と購買が続くわけです。そのなかで我々と日高と宮崎の育成牧場の関係者が一堂に会しますので、適宜調整しながら、その74頭の購買を秋までに買いながら整えていく形ですね。

梅田「今回のセプテンバーセールは3頭が買えました」「残り、あと45頭」「じゃあ、これでどうしていこうか」「次に買えるのはMAX8頭まで」「じゃあ、う~んこれは難しいか」みたいに細かくやり取りをしているのでしょうか?

内藤馬のセリって、九州や八戸は別ですけど、基本的には価格の高い順から行われていきます。 要するにセレクトセールで今年2頭買えた、セレクションセールで10頭買えた、という形で進めていって、何とかうまく買おうと考えて進めています。まあ、でも実際には難しいところがあります。予算内で頭数を揃える。もっと言えば、オス、メスも半々で揃えたいところなのですが…。

梅田やはり理想は半々なんですか?

内藤やはり半々ですね。研究を進める点では、そこも揃えないといけないですから。それで9月から馴致(じゅんち)が始まるという形になります。それこそ最初に鞍を着けるところから、育成研究、技術開発というところもやっていますので、いかに人も馬も安全に鞍を着けるということをお互いに許容してから調教を進めていきます。今は動物の虐待ということも、すごく世間で問題になっていると思います。そういったこともあり、馬に過度なストレスを与えるような馴致はしないようにしています。昔だと鞍を着けて、その辺をバーッて走って落ちないように頑張って、これで馬がこう受け入れたからよし、みたいなこともあったようです。そういう馬にストレスを与えるような馴致は良くないことだと思うので、我々職員を年単位で海外にも派遣していまして、そこで技術を持ち帰って、それを広く一般の育成牧場にも啓蒙するということをしております。それが強い馬づくりというところにも、だいぶ役立ってはきているのかなというふうに思います。

今年のテーマは見た時に「あまり脚を振っていない馬を選ぼう」

梅田馴致の仕方というのも変わってきているのですね。

内藤変わってきていますね。馴致を始めて、秋の11月ぐらいには人がまたがって大きい馬場で走れるような形にして、年が明けると15―15ぐらいの調教を始めて、今に至るということの繰り返しですね。そのなかで「今年はこういう試みをやったけれども、こうだった」というところを年々フィードバックしていって、「じゃあ、今年はこういう運用をやってみよう」というふうにやっています。正直、何が正解かというのは難しいですね。でも、今年にしても74頭を買う時にテーマをある程度は決めています。例えば今年だと、「歩き」を見ています。

梅田歩様ですか?

内藤はい、歩様ですね。見た時に「あまり脚を振っていない馬を選ぼう」と。 前から見た時に、脚を横に振らない歩きをしている馬ですね。

梅田セリに行った時に皆さん前からも必ず見ていますよね。いろいろ関係者の方に伺ったら、そういうところを見ていると聞きました。

内藤それがなかなかいないのですよね。ちょっと外を向いていたりとかしていて。でも、あえてそこに“重き”を置いて購買を進めてみたらどうだろうかということでテーマにしました。やはり故障が多いというのが、現場ではすごく悩みなんです。それでそういった形でテーマを決めてやってみると、今年は比較的故障が少ないんですよ。理由はそれだけではないのかもしれないですが、試みの一つとしてテーマを持ってこういう購買をする、そうするとこういう結果が出る、ということを1年ごとにやっております。

梅田毎年テーマを模索しつつ、じゃあ今年はこんなテーマでやりましょう、と明確に考えてやっていらっしゃるのですね。

内藤やっぱり困ったことに対して、それを改善するためにはどうすればいいのか、と考えてやっております。

梅田何とかプラスに転換したいですもんね。

内藤同じ失敗はしたくないでしょうし、それが進歩なのかもしれないですから。

実際に馬を見ていただいて、そこから現地で実際に買う形がいいようです

梅田そうですよね。ちなみに今年は何人ぐらいの来場者が見込めそうですか?

内藤昨年が祝日(昭和の日)の開催でした。去年は236人の方に来場していただき、非常に多かったです。あとはインターネットで買われる方、オンラインで買われる方もおりますので。

梅田オンラインビットの利用状況も、やはり活発なのでしょうか?

内藤コロナの時は非常に多かったのですが、そこからもっとどんどん進んでいくのかなと思ったら、やっぱり最近は減っていますね。実際に馬を見ていただいて、そこから現地で実際に買う形がいいようです。

梅田やっぱり行きたいですもんね。日本国内ですし、行けるものでしたら。

内藤今は騎乗供覧を1日目にやって、セリをその翌日にやっております。なので騎乗供覧は現地で見ていただいて、セリはご都合等でご自宅、もしくはその他からネットで買われるという方もいらっしゃるようには思います。

梅田いずれにせよ、やっぱり会場に足を運ばれる方が多い感じですね。例年、だいたい200名ぐらいというのは、結構増えてきているのでしょうか?

内藤増えてきています。ただ、馬は70とか80頭しかいないわけですから、皆さん全員が買えるわけではないのですよね。

梅田中山馬主協会の西川賢会長の牧場(ウエスタンファーム)が生産した馬は、上場番号「61番」(スカイノーヴァ2024)ですね。この馬はサマーセールで、どういうポイントを評価されて購入されたのでしょうか?

内藤事前に下見に行ったり、いろいろと見させていただいて、筋肉量が豊富で力強い歩きをしていた点が目に留まりました。それで買わせていただいて、宮崎で育成をしました。トラブルがなかったわけではなく、これも公開している情報ですが、右後脚のツメをちょっとぶつけてしまったりして、ちょっと心配した時期もあったのですが、無事に上場できそうなのでよかったです。

梅田それはよかったですね!

内藤お預かりした以上は無事にしっかりと走ってほしいと思っております。

梅田この馬は北海道サマーセールで480万円で落札した馬ですので、始めの上場価格というのは先ほど室長がおっしゃっていたように、だいたい7割、8割ぐらいからのスタートになるんですか?

内藤だいたいですが、この馬は300万円くらいからいきたいなというふうに思っています。ちょっと“ずるい”のかもしれないですけど、低く台付け価格にしておいて、皆さんに手を挙げていただいて競り合いになってもらった方が、値段はすごく上がるんですよね。最初の一声というのが、かかるとかからない状況では全然違いますから。

梅田違いますよね。それはもう勢いですよね。そういう流れというものはありますよね。

内藤ええ。誰かが手を挙げると、「あ、この馬買ってもいいんだ」という安心感もあると思います。低い台付け価格でやらせていただいて、どんどん声をかけていただいて、という形になればいいなと考えています。

騎乗供覧は馬の自然な走りを見てくださいというのがテーマ

梅田今年のセリの前の時点でうかがいますが、きっとこのなかで人気になりそうだなという室長の“お薦め”と言いますか、たぶん人気になるであろうという馬はいかがでしょう?

内藤まずは上場番号「6番」ですね。新規のところにいるのですが、「タキオンメーカー2024」になります。これは我々の自家繁殖でやっているタキオンメーカーという馬なんですが、この子供たちが非常に走るんですよ。みんな活躍していて、先日もアルデキングダムが勝ちましたし、注目していただいていいのかなというふうには思います。

梅田兄姉が走っているのはいいですよね。

内藤そうなんですよ。それに、このお母さんもセリの直前で故障をしてしまって繁殖牝馬にした馬なんです。

梅田そういうのは余計に思い入れがありますよね。走ってほしいなって。

内藤あとは上場番号「11番」で、ロードカナロアの産駒ですね。

梅田北海道セレクションセールで1200万円で落札した馬ですから、 おおよそ台付け価格は1000万ぐらいからになるのでしょうか。

内藤そうだと思います。なかなか1000万円の台付け価格というのは、トレーニングセールでは高めではあります。血統であるとか馬格というところであれば、その値段がつくのでしょうが、セリの騎乗供覧でまた一つ新しいタイムという“物差し”が生まれるので、果たしてそれが見合った台付け価格なのか難しくなることもあります。

梅田ブリーズアップセールの概要を見たら、「時計のみでない評価」とありますね。

内藤そうです。追ってムチでバチバチ叩くなんてことはしないで、馬の自然な走りを見てくださいというのがテーマです。

梅田他のセリって、結構バチバチとやるイメージなんですけど、あえてそのようにしているのは、何か意味があるのですか?

内藤そうですね。馬の本来の動きを見ていただきたいというのが大きなところです。一応、13秒0、12秒5という目標のタイムは設定していますが、馬が自然に出してしまうスピードについては、引っ張ること、ブレーキをかけることはしないというルールでやっています。ある意味、分かりやすいかもしれないですね。

梅田自然な形の出来映えというんでしょうか…?

内藤ええ。11秒台で走る馬もいますからね。実際に走ってみて、どうなのかということになると思います。

梅田室長の一番のお薦めは、やはり「11番」ですか?

内藤カタログ的にはそうですね。あとは走ってもらってどうかなっていうところです。

梅田新種牡馬のエフフォーリアの産駒もいますね。

内藤上場番号「14番」の「テルヌーラ2024」は展示会まではよかったんですが、展示会の後に脚が痛くなってしまいました。だいぶ良くなってるのですが、騎乗供覧は「遅めの調教」でいこうと決めたところです。うちは順調ではない「調教進度遅れ」というカテゴリーも作っています。すぐにデビューできるような馬では残念ながらないですが、将来的にちゃんと競走馬になれるということは、我々が確認していますというものです。今は13秒0、12秒5で走らせるのは無理でも、台付けのお値段についてはもちろん安くします。将来、競走馬になれないわけではないが、今は残念ながらちょっと調子を落としております、というカテゴリーでの上場になります。そのなかから活躍している馬も、たくさんいます。

梅田そういう馬で、今までで活躍した馬は具体的にいますか?

内藤一昨年に『ラストシャリナ』という馬が”調教進度遅れ等“のカテゴリーで売却され、2歳秋にデビューしこれまでに3勝をあげ現役で活躍しています。以前は二次売却としてHBAトレーニングセールに上場した馬の中から『サノサマー』といったオープン馬も輩出しています。

梅田そうなんですね。皆さんが知っているような馬で、実はそういう過程があったんだけど、走ったという馬がいたら面白いと思います。

内藤調教進度遅れの馬たちは競走成績で言えば勝ち上がり率では、それほど差はないはずです。早期デビューという点では、そういう馬はなかなか難しいかもしれないですが。先ほども言いましたが、1割くらいが欠場という形になってしまいます。その馬たちの将来をここで潰してしまうのは本当にもったいないことです。 だからチャンスを作らせていただいて、なんとか競走馬にしたいということを考えています。

梅田やっぱりブリーズアップセールは4月の終わりで、コンソレーションセールは6月ですから、その1か月ちょっとある間に良くなったり成長もしますよね。

内藤それはありますね。外傷であれば治ることが多いですし、脚が痛いということでも、やはり晩生(おくて)な馬もいますからね。

人材、研究、そして競走資源として馬主の方々への貢献というところを主に考えています

梅田始まってから20年以上が経ったセールですが、またさらに良くしていって、どのようなセリに育てていきたいと思っていらっしゃいますか?

内藤やはり、もう少し競走成績の面でいい成績を挙げて、育成業者さんや生産牧場さんにも我々の研究成果に耳を傾けていただきたいというのが一つあります。あとは人材養成という点が非常に大きいテーマに最近なっておりますので、そこも考えていきたいです。

梅田人手がいないというのは、死活問題ですよね。

内藤我々職員にとっても、競走馬になる一歩手前の馬に乗れるということは非常に大きなことだと思います。生産者さんであるとか、厩舎の方とお話をするなかで、事務仕事だけではなく、こういった馬に携わるところで接点を持って、ディスカッションを進めていくというのは非常に重要なことだと思います。新規のJRAの馬取り扱い職員にもここで実際の生産や育成の勉強をしてもらって競走馬に対する技術と知識を紡いでいただけたらと思います。あと、北海道ではBTC(軽種馬調教育成センター)で生産地で働く騎乗者養成をやっております。その生徒たちがこの馬たちに乗って、研修で日高育成牧場に来て、そういう教育用としてもこの馬たちを使っているのですよ。なので、そういった人材を育てていき、今競馬が直面している人材不足の解消に少しでも役立てばというのはございます。

梅田単に馬を売るということだけではなく、その奥にはいろんなことがあるのですね。

内藤テーマはいろいろありますよね。もちろん、馬主の皆様にセリの楽しさを知っていただきたいですし、人材、研究、そして競走資源として馬主の皆様への貢献というところを主に考えています。

梅田新規の馬主さんにとっては、ここを足掛かりにいろんなセリに目を広げていただければいいなと思いますよね。お陰さまでブリーズアップのセリに興味がさらに湧いてきました。セリに役立つ勉強会や事前の下見もそうですし、すごく整えられていることが改めてわかりました。「コンソレーションセール」というのも、実は私、知らなかったんです。これからも本当に多くの方に来ていただきたいですね。

内藤そうですね。セリの入門編として、うまく機能していけばいいなというふうに思っております。

宮崎の育成牧場で改めて知った一頭一頭にかける現場の思い

梅田ちなみに内藤室長は獣医さんでいらっしゃいますが、馬との出会いはいつからだったのでしょうか?

内藤私は埼玉県出身で、家の近くに動物公園みたいなものがあったんですよね。

梅田え、何という町のどちらですか? 私、川越ですよ!

内藤そうなんですね。私は東松山で、そこの動物公園に馬がいました。小学生の頃ですが、毎週のように通って触らせてもらっていて興味を持ったのが最初なんですよ。それで高校に行ったら、ちょっと競馬にはまって、中山競馬場に行ったりして(苦笑)そして今はこの仕事をしています。

梅田獣医さんになられたということは、大学は獣医学部に行かれたのですか?

内藤そうです。それで競馬会に入らせていただきました。最初は臨床と言うのか、競走馬診療所で12年くらい働きました。美浦と栗東のトレセンと馬事公苑や競馬学校にもいましたが、ある日突然、宮崎で「育成をやりなさい」ということになりました。全然、分からないところからでしたね(苦笑)。

梅田やっぱり全然、畑違いというか、同じ馬の世界でも違いましたか?

内藤違いましたね。宮崎に行って育成に携わることになりましたが、やはり現場の思いというのがすごいんですよ。今は現場ではないのですが、半年か9か月くらいセリに向けて馬を育てていくわけじゃないですか。最初はもう、触れないような馬から始まって、鞍を着けて、自分でまたがって最後はちゃんと走れるようにまでする。すごく熱心にその一頭にかける思いというのがあふれています。トレセンで診療をしていても、やっぱり病気の馬などはいますけど、たくさんいるなかの一頭なんですよね。育成業務をやると、一頭一頭がすごく重く感じられます。欠場してしまうことになった場合、担当者も涙を流して悔しがるくらいですから…。

梅田我が子が病気になっちゃったというような気持ちですね。

内藤そうですね。生産者さんからしたら、どの馬もそうなんですよね。「ああ、こういう世界があるんだな」というのを改めて知りましたね。

梅田育成は鞍を着けて乗るところからだから、本当に手塩にかけてですものね。

内藤そもそも生産からしていたら、なおさらだと思います。やっぱりうまくいかないこともあるでしょうし、そうすると今度は生産者の人の気持ちであるとか、育成されている方、馬主の皆様もそうですよね。買ってきて一生懸命に期待している馬が、ある日突然ということもありますから。

「裏テーマ」と言えるライバル関係の宮崎と日高にある意外な違い

梅田育成の方に来られてからは、どれくらいになるのですか?

内藤もう17年くらいになります。この仕事をさせてもらっていますけど、いろいろ大変なことはあります。どこか一か所を見ていればいいという感じでもないのですよね。生産育成対策室ですから当然なんですけれども、やっぱり生産者さんの方も見なければいけません。馬主の皆様のご意見というものもうかがいながら、仕事を進めていかなければいけないというのは重々承知しております。皆さんから良くしていこうというご意見を寄せていただけるので、そこは本当にありがたいです。ただ、この育成業務をいい形で進めていきたいですね。馬主の皆様にも還元したいし、生産地にも還元して、強い馬を作っていきたいです。

梅田育成をやっていて一番良かったこと、またうれしかったことはいかがですか?

内藤やはり、今の立場で言わせていただきますと、全馬が売れることが非常にうれしいことです。みんな行き先が決まってよかったな、というところですから。その陰には欠場してしまった馬などもいますが、購入された馬たちが勝つこともそうですし、デビューする時もうれしいですね。

梅田今年も盛況になることを祈っています!

内藤こうやって注目していただけることが、何より本当にありがたいです。

せっかくなので、実際にセリを前にした馬たちを見ていただきましょう。お話に出てきた「スカイノーヴァの2024」です。

梅田あー、かわいいですね!撮影のモデル立ちがすごく上手ですね。いい馬主さんに出会えるといいですね!

内藤前進気勢が強くて、若干ちょっと怖がりなところもありますけど、うちの育成牧場で過ごしているなかで、今はこうやって普通に立っていられるようになりました。

梅田それはよかったです(笑)。

内藤こちらで、ちょっとツメを見てもらってもいいですか?色がちょっと変わっているじゃないですか。あれは樹脂を塗っているのです。ちょっとぶつけてしまうところがあり一部蹄が欠けてしまい、“付けツメ”をして蹄鉄をつけています。こういう情報も開示して、この時にこういう病気があってということをお知らせして、納得の上で買っていただく形にしております。

梅田あのツメって、そのうちきれいになるのですか?

内藤なります。最初、秋に見た時は割れちゃっているところが一番上だったんですよ。それが、だんだんだんだん下がってきて、今ここまで割れていた部分がきたという感じですね。そこはツメがないので、あの樹脂をくっつけて、そこに釘を入れて蹄鉄を着けている形です。だから装蹄師さんも大活躍でした。

梅田歩かせても、ちゃんと言うことを聞きますよね。素晴らしいです。今、宮崎のチームから「日高に負けないぞ」みたいな声も聞こえてきましたが(笑)。

内藤日高に負けないぞ、ですか(笑)。(宮崎育成牧場)は温暖な気候を生かして馬がよく育ったと思いますから、そういうメリットを最大限に生かして、いい調教ができたと思います。逆に1600メートルのコースしかないので、中山で走行する練習は結構できているので、いいパフォーマンスが騎乗供覧でできるのかなと思っています。そのへんに期待していただければと思います。

梅田なんか裏テーマとして「日高対宮崎」があって、それをちょっと頭に入れておきたいと思います(笑)きっと美浦と栗東の関係のように育成牧場も切磋琢磨しているんでしょうね

内藤育成牧場が2つあるというのは、そういう意味でもいいですよね。日高は坂路があるメリットがあります。その代わり、宮崎は気候が温暖で毛づやなどは宮崎の方がいいかなと思います。今は差が少なくなってきていますけど、今は「ライトコントロール」と言って日高は夜に電気をつけておく技術が定着しているのです。

梅田そうなんですか?

内藤人工的に冬至の時と同じ日照時間を作るんですよ。そうすると馬って、入ってくる光の時間の長さで季節を感じるので、それで勘違いをして「もう春だ」と思って冬毛をぬいちゃう。だから気温を変えなくても、ライトだけを変えれば、春が来ると思って発情もきます。

梅田え?気温じゃないんですか!?

内藤気温ではなくて、日照時間なんです。そういった研究もしていて、それも生産地には還元しています。

梅田そうなんですね!?競馬でモコモコした冬毛で使いたくないでしょうから。

内藤そうなんです。成長ホルモンも出るので、馬体の成長という点でも、それによって寒冷地・北海道におけるデメリットがなくなるのですよ。昔は全然、違いましたよ。日高はもう冬毛で毛むくじゃらで、宮崎はピカピカの馬体をしていたり。今はそんなに違いが分からないですよね。地球温暖化の影響もあるのかもしれないですが、そういった技術開発というのもあって、面白いところではあります。

梅田本当に面白いです。ちょっとそういうことを学校で話してくださいよ、今度(笑)すごく分かりやすいので、お話しいただきたいです(笑)。

内藤関心を持っていただけるのは、本当にありがたいです。去年のセリは宮崎の馬が比較的高く売れたんですよ。それは騎乗供覧をすごく上手にできたからです。売却成績はこっちの勝ちでしたが、競走成績は今まで7個勝っているのですが、日高が6対1で勝っています(苦笑)。

梅田でも、室長は日高にもいらっしゃったんですよね?

内藤はい。でも、今は何となくこちら(宮崎)を応援してしまいますね(笑)どうしても頭数は宮崎の方が少なくて、1対3ぐらいですかね。 宮崎の22頭に対して、日高は50何頭ですから、こっちの方はこじんまりとやっています(笑)。

梅田これからもブリーズアップセールが盛り上がっていってほしいと思います。本当に貴重なお話、ありがとうございました!

(構成:スポーツ報知 坂本達洋、Photograher:山口比佐夫)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。

※この記事は 2026年6月7日 に公開されました。

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