01. JRAブリーズアップセールの歴史にある目的と意義
安心して買っていただくというところを大事にしております
梅田今年でJRAブリーズアップセールが第22回を迎えました。そこでJRA馬事部生産育成対策室の内藤裕司室長にお話を伺います。ちょうど私がグリーンチャンネルのキャスターの仕事が決まった頃から始まったので、その時のことを覚えています。
内藤昔は「抽選馬」と言って均一の価格で馬主の皆様にくじを引いていただいて売却、配布するという形でやっていましたが、均一の価格がよろしくないというような行政の指導もあり、均一価格でお分けするということが制度上、できなくなりました。育成馬を買っていただくと、トレセンに調教師さんの馬房がプラスされるという素晴らしい保護政策だったのですが、それもよろしくないということになり、無くなってしまったんです。当初は、その馬房がつくメリットが無くなってしまったことで、売れなくなってしまうのではないかという点で非常に心配していたのですが、いろんな取り組みがあって、お陰さまで今に至っているという感じです。売却成績の方も最初こそ100%ではなかったのですが、それからはずいぶん高い、100%に近いところで推移させていただいています。残念ながら昨年は1頭売れなくて、100%の連続は途切れてしまいましたが。
梅田いえいえ、それでも1頭ですからね。すごい売り上げの数と金額ですね。
内藤はい。ただ、全部売れているとは言うものの、今年のセリでもそうですが、もう5頭ほど欠場馬を決めています。
梅田そうなのですか。今年は83頭の上場を最初は予定していて 実際には78頭が上場することになったのですね。
内藤欠場する馬というのも、おそらく欠場を決めるレベルとしては、無理をすれば走れるくらいだとは思います。ただ、JRAの馬主の皆様、特に新規の方を主なターゲットと考えていて、新規の方のお手伝いをするという大きな目的がありますので、安心して買っていただくというところを大事にしております。
梅田そういうことなんですね。どういう経緯でこのセリが始まったかということについては、やっぱり初めは「抽選馬」のことがいろいろあって、今に至るというお話でしたが…。
内藤「競走資源」の確保というのが一番の最初の狙いでした。 馬主の皆様に馬を持っていただかないと競馬が成り立たない。主催者として馬を用意して、馬主の皆様に馬を持っていただくという大きな目的があったので、馬房も付けてという形でした。
梅田初めは「抽選馬」でそういう形でしたけど、いきなりセリという形にしたのは、その方が公正ということだったからでしょうか?
内藤均一価格というところが、やはり公正な取引ではないんじゃないか、必要以上に優遇しているのではないのか、と問題になりました。そのためセリという価格を公正な取引にという指導が入って、今のような形になりました。
梅田そうなのですね。そうなると当時、新規の馬主さんにしたら「え?」と思われたりしたのではないですか?
内藤そうでしょうね。それまでは、“馬房付き”ということもあり、比較的参加する調教師も多かったのですが、このメリットがなくなると馬主の皆様と調教師のペアリングが少し難しくなったのかと思います。一方で、セリを楽しむと言うのでしょうか、今も馬の下見とかたくさんの方々にしていただいておりますけれど、そのセリで馬を選ぶという楽しみという面では、良い方向になっているのかなと思います。セリで馬を選ぶ楽しみと言う点で、非常に熱心に馬主の皆様にも勉強をされて参加していただいております。
梅田それも馬主さんの醍醐(だいご)味というか、楽しみの一つですよね。
内藤はい、楽しみにしていただけているのかなと思います。

いつも中山競馬場で開催しているメリットや背景
梅田ちなみに、どうして中山競馬場で開催しているのでしょうか?いろいろな競馬場がありますし、育成牧場でもいいのに、あえて中山競馬場で開催するのはどうしてでしょうか?
内藤それは、やっぱり馬主の皆様の利便性というところが大きいと思います。かつては阪神競馬場などでやったこともあるんですよ。
梅田そうなんですね。
内藤はい。ただ、阪神競馬場でやった時は、売上の成績としては来場される馬主の皆様の数も少なかったのです。やっぱり首都圏でやるというのが、利便性もそうですし、こちらの売上、売却についてのメリットもあるという判断です。
梅田それでは何年か前に1回だけ災害、震災があったなどとは関係なく、他の場所で開催したことはあるのですね。
内藤コロナ禍の際には、両育成牧場でメール入札で実施しましたが、阪神での開催は震災などとは関係なかったです。「東西でやろうじゃないか」という試みでした。ちなみに札幌競馬場にはセリの施設があるのですが、まだ4月は馬場が雪に閉ざされているので難しいです。札幌のセリの施設を使っていつかはやってみたいなという思いはありますが…。ただ、先ほども言ったように、中山競馬場の皆さんがすごく協力していただいておりますし、馬主の皆様をはじめ、すごく協力的なところでありますので、本当に中山競馬場で開催させていただいて助かっております。
梅田なるほど。もうだいぶ、この時期に中山競馬場で行うブリーズアップセールは定着しましたよね。
内藤そうですね。ありがたいことです。

いいところも悪いところも徹底的に開示しようということです
梅田最近のセリの傾向などは何かございますか?
内藤 やっぱり、新規の方がすごく増えているんですよ。80頭近くの馬を上場するのですが、3分の1ぐらいが3年以内に免許を取得された新規の馬主の皆様ですね。同じ2歳馬のトレーニングセールとしては千葉サラブレッドセールなどもありますが、我々は値段もそこまでは高くはないと思います。ビギナーの方からすると、比較的お求めやすいというところもあって、新規の方は増えておりますね。先ほど申し上げた通り、ターゲットというか、新規の方のお手伝いというのが大きな目標の一つです。分かりやすいセリの運営であるなどを重要に考えておりますし、あとは馬の病気ですね。育成の過程でトラブルがいろいろあるものなのですが、それも包み隠さずに分かりやすく開示しようじゃないかというところで、レントゲン写真であるとか、あとは喉の内視鏡動画などを他のセリに先駆けて事前に公開する形にしました。こういうことは他のセリでも広がってきております。
梅田 そうなのですね。私も去年の秋に初めて北海道のオータムセールにお邪魔したのですが、ネットで全部そういったものを見られるのですね。あれを先駆けて始めたのが、JRAのブリーズアップセールだったのですね。
内藤はい。いいところも悪いところも徹底的に開示しようということです。
梅田それは初めからですか?
内藤いえ、最初から現在開示している全ての項目を開示していた訳ではないです。やはり検査方法もだんだんとレベルが変わってきていますので、時代に即した形で出来るようになったというのがあります。あと、何でもかんでも出せばいいとものでもないのですよね。それを我々が評価できないと、説明もできないじゃないですか。我々のやっている育成業務は、研究ということも大きいテーマの一つです。そういった検査、結果を自分たちで蓄積していって、「こういう所見があったら、こういう影響があります」。もっと言えば「こういう所見があったとしても、これは関係ないです」と、そこまで言えるようになって初めてこうですよ、と開示している形です。
梅田そうなのですね。闇雲にマイナス要素も、というわけではなく、過去の経験だったり、「これだったらこうだから、大丈夫」ということをオープンにしているということですね。
内藤競走資源の確保という点では、生産頭数も増えていますし、馬がたくさんいて、馬主の皆様がお買い求めになる機会は増えていると思います。むしろ、馬が余ってしまうのではないかというような状況にまで、今はなっていますよね。そのため育成業務の主題が、今は育成研究というところになっております。 それで今言ったような疾病があった時、その後の競走成績がどうなるかというところを研究しています。それで毎年やっているものですが、セール1日目の月曜日(4月27日)に「セリに役立つ勉強会」をやりました。
梅田へえー、そのまんまのネーミングですね。分かりやすいですね(笑)。
内藤今申し上げたようにいろんな検査をして、「これはちょっと注意した方がいい病気ですよ」「これは大丈夫ですよ」ということを、 分かりやすく馬主の皆様に説明させていただくという勉強会です。研究をやっているんですけれども、本来は生産地の同業者の方に還元するという面が大きいものですが、それを馬主の皆様にもこういった形で研究成果を還元していこうという取り組みです。ただ、なかなか内容自体は難しいものになりますが(苦笑)。
梅田確かにビギナーの方にとっては難しいかもしれませんが、何か手がかりの一つになってもらえればということですね。一応、カタログに数値みたいなものが載っていても、やっぱり見方って分からないですよね。
内藤そうですね。同じスコアがあっても、それをどう評価するか、それがどう影響するのかというところまでは大変だと思います。
梅田ここで勉強したことが他のセリに行った時に指針となるかもしれないですよね。そういう意味も込めて取り組んでいらっしゃるのですね。これは私とかも行ってもいいですか?何だか勉強になりそうと思って。
内藤いろんな専門的な単語がありますし、聞き慣れないところで「喉の内視鏡」なんて言われても、何のことだか分からないかもしれませんが、1回見ていただければ、「ああ、こういうものなのかな」というポイントを現場の獣医師が来て分かりやすく説明する形でやっております。

74頭をセリで買ってきて、10頭前後の馬を自家生産
梅田やっぱりJRAブリーズアップセールの馬は2歳馬ですから、早ければもう6月にはデビューすることもありますよね?
内藤即戦力ですね。競走馬の一歩手前、ほぼ競走馬になっていますね。
梅田そうですよね。そういう意味でも見方が分かるようになればいいと思いますし、興味があります。
内藤そう思っていただけると、ありがたいです。先ほども申し上げましたが、JRAで生産している「ホームブレッド」っていう馬もいるんですよ。
梅田自家生産ですよね。
内藤はい。74頭をセリで買ってきて、10頭前後の馬をうちで自家生産しています。
梅田74頭も買うんですか?それはすごいです。そのあたりもうかがいたいと思ってたんですよ。自家生産って、どうやって配合を決めたり、牝馬を決めたり、あと繁殖牝馬をどうやって手に入れていらっしゃるのか、そのあたりがどのような段取りなのか教えてください。
内藤まず74頭を買うにあたっては、全国のセリで買わせていただきます。
梅田それこそHBA(日高軽種馬農業協同組合)のセールとか、セレクトセールなどでもですよね。
内藤そうです。セレクトセールから九州まで全国のセリからになります。
梅田じゃあ、室長もセリで出張に行って、実際に落札されたりされるのですか?
内藤ええ、そうです。我々は合議して買うので、1人がどうというのではありませんが。それで74頭を買うのですが、最近は馬の値段が高くなってしまって、なかなか思うように買えないところがあります。北海道市場の最近の売却率は8割とか9割になっていますよね。昔は5割を割っていた時もあったので、我々が欲しいと思う馬がほとんど買えたんですけど。
梅田昔はそうだったのですね。
内藤過去と言っても、15年とか16年とかそれくらいの話ですけどね。 今はセリが非常に盛況になってきているので、我々が手を挙げても予算の都合もありますから、半分か、半分以下ですね。手を挙げて実際に買えるというのは。
梅田そうなのですか。本当は何頭ぐらいセリで買うイメージなのでしょうか。だいたい7、80頭ぐらいでしょうか?
内藤74頭というのは、生産地との申し合わせで決めているんです。
梅田えー、決まっているのですね!?なんで74頭なのですか?
内藤生産地支援という点では多ければもっと多い方がいいのでしょうが、結局は人の問題があります。JRAの日高、宮崎の育成牧場の世話をする人数、十分な研究をする人数というのがボトルネックになっていて、74頭というのが精一杯なのです。馬が売れなかった時代には、「もっと買ってくれ」という声も当然ありましたが、今は74頭で落ち着いています。また逆にそれぐらい馬がいないと、十分な研究ができないんですね。1頭、2頭だけのことで、ものを言ってもしようがないですから。ただ、今はセリで馬が売れていますので、誰もが買うのに苦労をしているのは現実です。そうすると一般の馬主の皆様も当然買いづらいなかで我々が74頭も買っているのは、多少のご迷惑をかけている面もあるかもしれません。
梅田そういう声って聞こえてきますか?やっぱり主催者が馬を競り落として、またそれを売るということについては。でも、うかがっていると、研究などいろいろな目的があるのですよね。
内藤そうですね。もちろん馬主の皆様に還元をさせていただきますが、やはりセリの楽しみを我々が一生懸命伝えているところで、また逆にセリを邪魔してしまうというような、心苦しいところもないとは言えません。例えばセリで1000万円で買った馬がいるとしますね。そうすると我々が1年近く育成しまして、また売却をするわけで、そこでまた買っていただくチャンスもあります。値段についても、1000万円で買った馬でも、それよりも低い台付け価格、例えば800万円とか、平均すると7割、8割ぐらいの台付けから始めていますので、そこで競り上がってしまうこともありますが、預けていただいて一生懸命育成しますので、申し訳ない気持ちもありつつ、ブリーズアップセールで買っていただけたらと思います。
梅田新規の方へ、という目的もありますものね。
内藤そのためにも74頭を買わせていただいております。

「ホームブレッド」は選択肢を広げていこうと、少しずつ改善しているところです
梅田配合などの決め方はどうなのでしょうか?
内藤「ホームブレッド」という生産馬は我々で決めるのですが、馬格を見たり、また血統などからですね。他の牧場さんでやっていることと一緒だと思います。これまではJBBAという日本軽種馬協会の種馬を付けていたのですが、昨年から他の一般の種馬場の種馬も付けようということになりました。
梅田それは血が濃くなるとか、そういうことを避けるためですか?もしくは、いろんな血をいれていきたいということですか?
内藤選択肢を広げていこうと、少しずつ改善しているところです。あと繁殖牝馬については、故障などをして上場できなかったような馬を中心にやっております。あとは馬主の皆様から寄贈を受けるということもあります。あとは海外からですね。やはり成績が良くないと生産者の皆さんや育成業者の皆さんが、我々の話に耳を傾けてくれなくなると思います。なので、少しテコ入れをしようということもあって、海外から繁殖牝馬を買ってきて、それも今4頭いまして、今年も1頭買うつもりです。
梅田アメリカからですか?
内藤そうですね。アメリカのセリに行って買うという試みもやっております。
梅田アメリカだと、どういう牝馬を買ってくるのですか?
内藤血統的に魅力があるところを評価しながら、まだ供用してない馬を買うというのが基本にありますが、そこはその時のニーズであるとか、実際にセリに行ってみての価格の都合もありますからね。
梅田海外にも行って、いろいろとやっていらっしゃるんですね。
内藤ただ、生産は難しいですね。生産者の皆さんもそうなのでしょうけど、我々の場合は本来であれば10頭の生産を目指しているんです。それでも結局は種が付かなかった、流産してしまった、死産で生まれてしまうことなどがあります。育成期についても、残念ながら故障してしまう、セリまで連れて来られても、最後の追い切りやったところで故障してしまうことなどがあるため、結果的に上場できるのは7頭くらいです。

(構成:スポーツ報知 坂本達洋、Photograher:山口比佐夫)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。