02. 地味な工夫をお客様に楽しんでいただきたい
4回中山の最大のヒットはフリーパスの日に「ビール半額」
梅田最近は場内でのイベントもいろいろやっていますよね。「オクトーバーフェスト」とか。
石川4回中山の最大のヒットは、フリーパスの日に行なった「ビール半額」じゃないでしょうか。どれくらい売れたと思います?普段は1日6000杯くらいです。
梅田あれはすごいイベントでしたよね!何たって半額ですもんね。「どうして私、今日仕事なんだ~!」って思いました(笑)。
石川あの日は高いビールほど売れたんですよ。だって600円は300円だけど、1000円のビールは500円になりますから。
梅田え~、どれくらい売れたんでしょう。トータルですよね。1万杯ですか?
石川18000杯です。ビールって飲みたい人が飲みたいだけ飲んでいるわけじゃなくて、おそらく我慢をしているのだと気付かされました。いつもは1杯で我慢している人が遠慮しないで飲んだら、結果的に3杯くらい飲むことになったのでは、と分析しています。
梅田お父さんたち、お姉さんたちが、いつもの3倍は飲んだわけですね。
石川だいたい2~3万人の入場者だったら6000杯くらい売れるよねという他の開催日と比べてみた推測です。6000杯が18000杯、ビールを飲む人の数はほぼ同じだと思われるので・・・。
梅田今年は天気が良かったですよね?
石川いかにも「ビール日和」という感じだったので、朝からこれはいくぞと思いました。
梅田そうなんですね(笑)。
石川あと、ちょっと気の毒だなと思ったのは、お酒飲まない人とか子供さんとかも冷たい物を飲みたいじゃないですか。あんなに暑かったのだから、ビールだけじゃなくて飲み物全部を半額にすればよかったのかなと反省しました。実現のお約束はできませんけど(苦笑)。
梅田それは喜ばれますよね。アイスクリームを安くするとか、今後はそういうことがあるかもしれませんね。
石川冠名が付くような派手なイベントとはちょっと違うけど、結果的に数字を見た時に大勢の方々が喜んでくださったよねと実感できるような企画を、もっとやっていきたいと思いました。「ビール半額」ってイベント名だけ見たら地味じゃないですか(笑)。
梅田地味だけど、今季一番のヒットは「ビール半額」ですね。場長はお酒はお好きですか?
石川たくさんは飲めないですけど、飲むならビールが一番好きなので、やっぱりあの時は飲みたいなと思いましたよ。

こだわりの強い場内BGMに込められた思いと秘話
梅田来年はどうなるか、楽しみにしておきたいです。ちなみに中山でのオススメの楽しみ方ってありますか?ここから見るといいよ、とか。12月のイベントはいかがですか?
石川12月13日に「ふなっしー」が来場します!大ブレイクしていた頃と比べると人気も落ち着いていますけど、中山競馬場としてはこういう時こそという気持ちでお呼びしています。船橋で一緒に育ってきた仲間ですから。私は年末開催の目玉企画だと思っています。あと実は秋の4回中山開催からBGMに工夫をしているんですよ。
梅田BGM!?
石川レースとレースの合間に曲を流したりするじゃないですか。4中1週目はEarth,Wind&Fire「September」を1日中流していました。苦情が殺到するかとビクビクしていたのですが、SNSなんかを見るともちろん賛否ありながらも割と評判が良くて、「家に帰ってもまだ頭の中で流れて困る(笑)」とか、賛なのか否なのか分からないような反応もあって。その後は9月の曲を毎週1曲づつ追加することにして、2週目に「すみれSeptember Love」と「September」の2曲をローテーション。告知しているわけではないのだけど、2週目が終わるとSNSでは「来週は何が増えるんだ?」って雰囲気になりました。最終週に竹内まりやさんの曲を加えました。
梅田竹内まりやさんの何という曲ですか?
石川それも「September」です。少し悲しい別れの曲なので最終週に加えることは最初から決めていました。懐メロ中心にオッサンメンバーで選曲していたので、3週目は若い子たちに任せたところRADWIMPS「セプテンバーさん」が選ばれました。
梅田中山競馬場のBGMのお話は知らなかったので、面白いです!
石川そもそも何故Earth,Wind&Fire「September」なのかと言うと、あれって実は9月の歌じゃなくて、12月の歌なんですね。12月に9月のことを懐かしんで『9月は楽しかったよね、12月の今も楽しいけど…』。これはまさに中山競馬場の歌だ!というのが始まりです。Earth,Wind&Fire「September」を4・5回中山のテーマソングにする4ヶ月越しの企画なのです。
梅田いや~、面白いですね!
石川賛否分かれているのを承知で5回中山でも地味に続ける予定です。「中山競馬場、今日はどんなBGMを流すんだろう?」って楽しんでもらえると嬉しいです。大勢のお客様がいらっしゃいますから、合わないお客様にも配慮しながら慎重にやっていきたいと考えています。
梅田12月だとクリスマスソングですよね?何がかかるんだろう。マライア・キャリーとか山下達郎さんとかですか?
石川その2人は鉄板ですね。でもベースはEarth,Wind&Fire「September」なので、これは絶対に混ぜたいと考えています。「何故12月の5中にSeptemberなの?」って違和感をもってもらえれば大成功です。
梅田そうだったんですね。これは中山競馬場の楽しみ方の一つとして間違いありませんね。そういう経緯だったとは初めて知りました。地味だけど面白いですよね。そういうの好きです。ちょっとラジオっぽいですね。
石川「音楽ってもっと活用できるよね」という感覚を大切にしたいと考えています。
梅田そうですよね。空間の中に音楽があるのはいいことですし、ファンファーレなどは競馬ファンの皆さんが大好きですもんね。中山の楽しみ方のお話は、マニアックでとても面白かったです。

マークカード、馬連、そして3連単の導入に尽力
梅田楽しいお話をお聞かせいただきましたので、石川場長のご経歴についても伺いたいと思います。今年で入会されて何年目になられるのでしょうか?
石川平成元年(1989年)入会なので37年目になります。私は本部やウインズでの勤務が多く、競馬場は若い頃に札幌と中山の2か所、場長として小倉と中山の2か所で残念ながら実質3場しか経験していません。
梅田今までいろんな部署を経験されてきたなかで、思い出に残るお仕事とか、やってよかったなというお仕事はございますか?
石川入会して最初に配属されたのが施設部でした。とは言っても、設計とか積算をするのではなく予算管理や資産計上の仕事です。入会直後の私には額も規模も大き過ぎて達成感みたいなものを得ることができなかった記憶があります。一方で開催日には投票関係の仕事を与えられていて、投票の現場を面白いと感じていました。そんな中、平成2年(1990年)にマークカード導入、翌平成3年(1991年)に馬連の導入があって、大きな変化がある時でしたから、平常業務の部署を超えてマークカードや馬連を導入するお手伝いをさせていただいていました。
梅田過渡期というか、馬券の購入の仕方に大きな変化があったタイミングですよね。ちょうどオグリキャップの頃でしょうか。
石川馬連を導入するためには、マークカードを普及させなくてはいけない。その頃は窓口でお客様が口頭で申込まれる内容を窓口の担当者が手打ち入力で発券していました。馬連になれば買い目が増える上、その内容も複雑になって当時のやり方では捌ききれないと考えられていたのです。その後札幌競馬場の投票課に配属となり、競馬場投票課の仕事を勉強させてもらって、中山競馬場へ異動しました。中山も投票課。今、中山競馬場の発売窓口(自動機)が500窓(台)くらいなのですが、当時は2000窓以上ありました。しかもそのほとんどが有人窓口です。有人窓口を2000窓開けるためには、3000人以上の発売担当者を雇用しなくてはなりません。ちょうど発売担当者の定年による減少がピークを迎えている時代でもありました。あまりに多くの雇用を抱え続けることは企業としてもリスクなので自動化によって雇用人員数を減らしたいという考えから中山競馬場では「定年による人員減を新規採用によって補うのでなく窓口の自動化を推進する」ことを徹底しました。ちなみに今の中山競馬場は500窓程度まで窓口が減り、働いている人の数は200人を切っています。当時は自動機を導入するのに一生懸命だったのですが、実際に運用する立場からすると機械そのものの出来があまり良くなかったんです。自動機には世代毎の数字がついていて第5世代の自動機、5次端末の運用を任されるなかで私は文句ばかり言っていました。「文句があるならお前が作れ」となって、本部トータリゼータ課に異動します。自動機のフルモデルチェンジですね。6次端末を3年間かけて開発しました。
梅田石川場長は、大学で理系の学問を学ばれていたのですか?
石川いえ、文系です。開発と言っても仕様書作りですから専門知識は不要で、ユーザー目線で無理難題を押付けてばかり。無理難題に応えてくれた当時の真の開発担当者には頭が上がりません。完成した6次端末は「発売担当者がバックヤードから手を掛ける必要を極限まで減らす」ことを目指して開発したもので、それまで1人で2台しか担当できなかったものを1人で10台程度まで担当できるような機械を目指しました。ところが端末を6次化しても相変わらず多くの現場で1人2台持ちの運用が続いてしまいます。労務管理の観点からは急に人を減らすことが難しいからなのですが、とはいえ、せっかくの端末をもったいなく感じていました。解雇するわけではなくて、他の部署で活躍してもらうとか、いろいろやり方はあったと思うのですが、競馬場とかウインズ毎に対応がバラバラでうまく進まないことを寂しく感じていました。ありがたいことに次の3年間は本部勤労課に異動となり、発売担当の方たちの労務問題を担当することになりました。「あなたたちを見捨てることは絶対にしない。でも今までのように窓口で働いたり、お金を入れたり抜いたりする仕事は人が余っているから、こういう仕事もしてもらいますよ。」と配置転換を納得してもらう空気を醸成することに尽力しました。その後本部投票課に異動、発売担当者をどのように雇用して、窓口をどのように運用していくかを全国的に主導する部署です。積み上げてきたことの集大成で投票所内の景色を一変させるつもりでしたが、力及ばず、意気込んだほどの劇的な変化には至りませんでした。ただ、その後も施策の方向性は変わらず、徐々に実を結んで今に至っています。本部投票課で実際に取組んだ仕事は平成16年(2004年)の3連単導入でした。平成2年(1990年) 馬連導入の際に口頭売りからマークカードの移行が不可欠であったのと同様に、3連単導入には新しいマークカードの普及が絶対に必要でした。私自身が他部署からのお手伝いとは言え導入に携わった思い入れの強い「旧マークカード」でしたが、3連単の運用に耐えれないことは明らかです。「赤青緑の新しいマークカード」をゼロから作りました。これらのマークカードは今も残っています。
梅田そうなんですか!ボックスとか流しとか。その時のお仕事だったのですね
石川そもそもボックスとかフォーメーションとかマルチという言葉自体がお客様にとって初めての言葉でしたから、3連単の買い方やマークカードの塗り方を説明するパンフレット作りなどは楽しくもたいへんな作業でした。良い思い出です。平成元年(1989年)に入会してから3連単導入までの16年間、恵まれた異動を繰り返せたことに感謝しています。ずっと繋がった形で仕事をさせてもらえました。

中山って独特のアットホームな感じがありますよね
梅田そもそも、競馬会に入ろうと思ったきっかけは何だったのですか?
石川幼い頃からギャンブルが好きで、高校数学で学ぶ確率とか期待値のお勉強も大得意でした。学生時代の友人に競馬好きが多く、誘われて時々競馬場も訪れてはいましたが、どちらかと言うとパチンコとか麻雀とか海外カジノや株式投資がメインでした。学生時代に訪ねたラスベガスやアトランティックシティでのワクワク感は今でも忘れられません。当たり前にずいぶん負けていましたし、こりゃ“胴元”にならなければダメだなという発想でJRAを目指しました。ちょうどバブルの時代だったので、どこを受けても「是非来てください」と言われるのに、JRAだけは様子が違っていたのを憶えています。だから逆にここは入社すべき良い会社なのだろうと直感して頑張りました。
梅田場長というお立場になられましたが、2度目の中山競馬場勤務、1年目ですね。今後の目標や、やりたいことはございますか?
石川もう60歳なので、自分自身がというのはあまりないですけど、若い頃の中山も今の中山もすごく居心地の良い競馬場だと感謝しています。馬主協会さんや関係団体の方々とも良い関係が築けていると感じますし。中山って独特のアットホームな感じがありますよね。そんな伝統的な温かさを今後も守り続けてほしいなと思います。私が3か所目として中山競馬場に配属されたのはもう30年も前のことです。30年前に感じた独特の雰囲気が今も残っているのが嬉しいです。
梅田それは同感です。お仕事はお忙しいと思いますけど、気分転換などはございますか?
石川JRAに入会した理由でも申した通り、私はとにかくギャンブルが大好きなので、ものすごく真剣に取り組んでいます(笑)。場長をやっているとあまり海外への長旅ができないのでカジノ遊びは小休止していますが、暇さえあればパチンコ屋さんに行ってスロットを打っています。
梅田そういう意味ではお客様の気持ちが分かりますよね。
石川お客様が主催者に対してどういう気持ちになっているのかということに敏感であるべきだし、それに応えられる主催者でありたいと考えています。例えばパチンコ屋さんに行くと、きれいなお姉さんが薄着でヤクルトとか配ってくれたりして、いろいろ盛り上げていたりするじゃないですか。私は「こんなイベントをやる金があるなら、設定上げろよ!」と思ってしまうんですよ。本当にお客様が求めているものに対して競馬会も向き合わないといけないと思っています。様々なタイプのお客様がいらっしゃるのですごく難しいことではあります。ガチで競馬に取り組んでいるファンの方たちにしっかり応えるサービスと、最初の1歩を踏み出してもらうためのイベント的なサービスは、やっぱり分けて考えないといけない。特に前者のサービスはすごく大事だと考えるのですが、ギャンブル依存症との絡みもあってなかなか打ち出しにくいです。分かる人には分かってもらえるような地味なサービスを工夫できたらと思いますね。
梅田やっぱり場長もプライベートでそういう経験があるからこそ、そういう思いを持っていらっしゃるのだと思います。ありがとうございます。最後にお伝えしたいことはありますか?
石川私は小倉で場長を務めていた時も、馬主協会の方々とはとても親しくさせていただき、楽しく過ごしてきました。中山には3月に着任する際、中山馬主協会は人数も多いし、小倉の時みたいに良い関係を築けるかしらと不安に思っていたのですが、本当に皆さん面白くていい方ばかりで、ありがたく可愛がっていただいています。引き続き親しくさせていただけたらと思います。
梅田有馬記念にたくさんの人たちに来ていただけるように盛り上げていただいて、石川場長も体に気をつけて頑張っていただければと思います。ありがとうございました。

(構成:スポーツ報知 坂本達洋、Photograher:山口比佐夫)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。