02. こだわりのフレーズや表現に込めた競馬への情熱
これぐらい大げさにやってお客様に届くか届かないかなくらいなんだなって
梅田昔のセレクトセールだと、血統をたどっていくとあまり知らない馬もいたりして、そういう意味では今は分かりやすくなって、今の“長浜語録”に生かされているのではないでしょうか。毎年、いろいろとセリで長浜さんのいろんな一言が購買意欲をかき立てるのではないでしょうか。実は先日、オータムセールに行ってきたんですけど、鑑定人の方によって全然テンポが違うんだなって思いました。映像を通して見ていると、そこまで感じないんですけど、実際に生で見ているとそのことをすごく感じて、鑑定人のしゃべり方だけであんなに空気って変わるのだなって思ったんです。それぞれ個性があって素晴らしいと思いました。
長浜千葉サラブレッドセールでも鑑定人をやらせていただいているのですけど、千葉セリで合田直弘さんと一緒になるようになって、合田さんが馬の紹介をして、私が鑑定人をやるという、合田さんと一緒の壇上に立ってやるようになってからじゃないですかね。というのは合田さんを見ていて、皆さんの前に立ってやっている方は、これくらい大げさにやってちょうどいいのだなということを合田さんと一緒に並んでやっていて肌感覚で感じました。千葉セリで “やらなきゃいけないんだな”という経験をしてからじゃないかなと思います。ちょっと私が変なこだわりを見せ始めたのは(苦笑)。
梅田千葉セリで合田さんとご一緒されるようになってからですか。それは一つの転機でしたね。
長浜大きなきっかけだったと思います。鑑定人として、これぐらい大げさにやってお客様に届くか届かないかなくらいなんだなって。
梅田我々アナウンサー業界でも美味しい物を食べた時に「うま!」じゃなくて、「おいし~い!」というのでは全然違いますし、自分ではすごく大げさにやっているつもりじゃないと伝わらなかったりします。そうじゃないと「はい、取り直し」って(笑)。
長浜セレクトセールでも中尾さんという後ろ盾があったからこそ、思い切ったこともやれていたのかもしれませんけど、もう中尾さんは去年で退職なさって私が一番年長者になってしまいましたね。
競馬の部分で感覚的なことをうまく言葉にできる人ってすごく好きです
梅田印象に残っているフレーズなどがありましたら教えてほしいです。
長浜シルバーステートのことを「未完成のストーリー、シルバーステート!」って言うのは考えながら思いつきました。どうせみんな「未完の大器」って言うんだろう、と思われているので、それは言わないでおこうと思っていて、「未完成のストーリー」と言った方がはまりがいいかなと思いました。これはシルバーステートに携わっている方々、ノーザンファームの馬ですし、藤原英昭調教師や助手さんも皆さん知っている方々ですから、「未完の大器」じゃこの馬の良さは伝わらないなと思って考えた時に、「未完成のストーリー」という自分のなかでいいフレーズが浮かび上がってきて、結構気に入っていました。あと、サクラバクシンオーのことを「マイペースがハイペース、それがサクラバクシンオー」って言ったんですが、それは朝の牧場で厩舎周りをしていた時に厩舎のスタッフと、ああだこうだとしゃべるんですけど、その時に出てきたんですよ。ついて来られんのか?俺の仕事の速さに君たちはついて来られるのかよ、俺のマイペースは君たちのハイペースだよ!?とか何とかいうふざけたやり取りのなかで、それが頭に残っていて「ハイペースがマイペース」をどこかで使おうとずっと思っていて、サクラバクシンオーの時に使おうと思ったんです。だから馬のことを考えていて浮かぶこともあるし、普段の仲間としゃべっている時に出てくるパターンもあります。あとモーツァルトという種馬の血を引くお母さんにキタサンブラックの子供が出てきたんですよね。それを事務所内で話をしていて、「今回の担当馬でボトムラインにモーツァルトの血を引く馬がいて、お父さんがキタサンブラックって、これ“エモく”ない?」って言ったら、「それは大ヒット間違いなしですね」と後輩が言ったのを、「それいただくわ」ってそのまんま使わせてもらったり。だから普段のおしゃべりのなかで、そういう準備をしている時って“感度”が高くなっていると思うんですよね。梅田さんもそうだと思うんですけど。どうでもいいフレーズが、ちょうど刺さることが結構あるんですよ。
梅田すごく感度が高いですよね。まるでコピーライターみたいで、あの言葉、どうやって考えているのかなって思っていました。
長浜馬の用語に関しては競馬週刊誌から拾っています。あとはラジオとかを聞いています。表向きは吉岡里帆さんの「UR LIFESTYLE COLLEGE」とスピッツの草野マサムネさんの「ロック大陸漫遊記」とMISIAさんの「星空のラジオ」をよく聞いていますと言っているんですけど、欠かさず聞いているのは同郷のリリー・フランキーさんの「スナック ラジオ」という番組で、リリーさんの独特のおしゃべりにすごく憧れがあると言ったらおかしいんですけど、リリーさんのラジオを聞いて言葉遣いだとか、自分なりには勉強しているつもりではいます。ラジオを聞く時間が普通の人よりも長いと思うんですよね。その影響はあると思います。
梅田そのお話を伺って、なるほどなと思いました。ラジオがお好きなんですね。だからかセリでも、すごく言葉が刺さるんですよね。言葉一つひとつが。
長浜ラジオもそうですし、サラブレッド血統センターの平出貴昭さんと辻一郎さん、伊藤創之助さん、藤井正弘さんの書いている文章がめちゃくちゃ勉強になりますし、平出さんのエックスも全て見ています。それで平出さんに許可も取っています。「いいフレーズがあったら、そのままいただきます」と。
梅田常にいいフレーズがあったらと探している感じですね。
長浜そうですね。この業界って調教師さんにしても騎手さんにしても、そういった方々とよくしゃべる機会があるのですけど、馬に乗ったことはあっても競馬に乗ったことがないからこそ、競馬の部分で感覚的なことをうまく言葉にできる人ってすごく好きです。仲良くしてもらっているからこそ、なおさらかもしれませんけど、藤岡佑介さんとかの表現の仕方とかがすごく好きなんですよね。藤岡佑介さんと馬のことをしゃべるのはすごく楽しいし、最近よくしゃべるなかでは、そういう感覚的な部分を言葉にするのがうまいなと思うのは横山和生さん。すごい勉強になりますね。
梅田もしよかったら、印象に残っているやり取りを教えていただけますでしょうか。
長浜最近よく使われるようになりましたけど、ちょっと走りたがる馬とか行きたがる馬のことについて「はみ出す」という表現をしたんですよ。最近、田中博康(調教師)さんも使っていましたけど。おさまりがつかない、ちょっと引っかかるとは表現せずに、「はみ出す」っていうのは絶妙だなと思いましたね。
梅田そういう感覚を言葉にできるって、すごいですよね。
長浜感覚的な部分を特に分かりやすく言葉にできるセンスがある人は、すごく憧れがあります。話していて心地がいいです。
梅田そうなんですね。言葉や表現への興味の深さを伺いましたが、やはり常にセリのことなどは頭の中で考えていらっしゃるのですね。
長浜大げさじゃなしに一年中面白いなという言葉があったらためていますし、控えているし、ノートにもパソコンに書いています。いろいろありますよ。手書きのやつはだいぶたまってきました。
梅田(長浜さんのノートを拝見しながら)いろいろ書いてありますね。そこに書かれているものは、いつか聞かせていただけると思って楽しみにしています。
長浜梅田さんもクラブのコラムに書いていらっしゃいましたけど、「言ってしまった後悔と言えなかった無念」。
梅田そのフレーズは、私の友人の井関隼アナウンサーが言い過ぎてしまって後悔したという時に、すかさず大先輩の吉田勝彦アナウンサーが横から「アナウンサーというものは、そういうものの葛藤なんや」と言ってくださったエピソードです。
長浜あれはなんかすごく自分もそうだなと思いますね。セレクトセールでしゃべりながら、言ってしまった後悔と言えなかった無念は、一頭ずつ全部ありますね。
梅田そうですか。あれを言えばもっといい方に回ったかもしれない、言わなかったらダメだったかなというのは私もよくあります。
長浜だから先ほども言いましたけど、売り手と買い手が全く逆のことを思っているわけですからね。売り手は1銭でも高く売りたいし、買い手は1銭でも安く買いたいわけですから。なかなか両者に喜ばれるというのはないのですけど、そのなかでいかに決められた時間内で正確にやるか。本当は僕の語録なんて必要ないんです。おそらくもっとスマートに淡々とやるべきなんです。
牧場の営業の仕事と名馬たちから学んだ大きな財産
梅田でも、いらっしゃる方が楽しんでもらえるようにという“ポリシー”ですよね。少なくとも楽しませてもらっている人は多いと思いますよ。セリの業務以外では、普段はどんなことを社台ファームでやっていらっしゃるんですか?
長浜牧場の営業ですので、極端なことを言えば、来たお客様全部に対応いたします。調教師さんが来たら管理馬をご案内して、オーナーがいらしゃったら所有馬にご案内をして、一口会員さんが来たらそれに対応するなどなど、馬を見に来た方々に全て対応して、オーナーに喜んでいただき、調教師さんにはベストの状態で馬を引き継げるよう尽くして、朝から厩舎を回っています。もちろん一頭一頭全部は見られませんが、調教の前に厩舎を見て回っています。今はだいぶ2歳馬は本州の山元トレセンや鈴鹿トレセンに出して、今は1歳馬たちがほとんど調教厩舎に集まってきました。だいたい世代で400頭くらいを調教するなかで、メンバーが代わってきましたので、個人の狙いとして10月末までに、その馬がどなたの馬で、どの種馬で値段がいくらで調教師が誰でというのを全部頭にたたき込む作業をやっているところです。
梅田セリ業務以外にも、いろんなことがあるわけですよね。
長浜今は新しいメンバーが来たので、顔を覚えながらプロフィールを一生懸命頭に入れているところです。
梅田社台ファームに入社されてから、すごかった馬、思い出に残る馬はいますか?
長浜入社して2年半は厩舎に所属していました。入社した頃はサンデーサイレンス全盛期で、その頃に現場で馬を触らせてもらって、とても勉強になりました。サンデーサイレンス自身は見に行くといつもピカピカしていて、油断も隙もなかったです。
梅田油断も隙もない、って近寄りがたいですね。
長浜まさにそう!サンデーサイレンスの産駒達は、皮膚感が薄くてスピードもパワーも兼備。繊細さはあるけれど、良い意味で瞬時に“レッドゾーン”に振り切るので、雨馬場だろうが高速馬場だろうが、関係なかったです。成長力もあったし、文字通り万能でした。加速とともに重心が低くなるって言うよりも、トモがガンガン入りながら加速してくるから、だんだん姿勢が起きてきて、勢いつき過ぎてヨレながら走る馬が多かった。エアシャカールやスティンガーなんかはそんな印象です。ヨレはしなかったけど、ディープインパクトも武豊さんから「飛ぶ」って言われてたから、沈み込むっていうよりは浮き上がってたのではないかなあと思います。今まで理想的とか常識的だったことが、全て変えられたような印象があります。
梅田本当にサンデーサイレンス産駒はすごい馬が多いと思います。
長浜あと今名前を挙げたエアシャカールは、1歳厩舎で働いていた時に見ていたのですが、7月からの1カ月で60キロの体重増。あれはびっくりしました。皮膚感が良くて見栄えは良かったのですが、幅がなかったのです。それが昼夜放牧を重ねて、そろそろ調教厩舎へ、という頃に目に見えて大きくなりましてね。昼夜放牧の馬は朝方に厩舎に入れて、カイバを食わせながらケガをしていないか馬体チェックするのですけど、単純計算で1日2キロ増だから、大げさじゃなしに毎朝「あら?昨日よりデカくなった!?」っていうのが毎日続いたんです。そんなに急成長すれば、脚元がもたないことも充分にありえますけど、あの馬は持ちこたえたし、凄みを増して調教厩舎に送り出しました。実際にクラシックを勝ったし、あの馬は強烈な印象があります。あとアグネスフライト、アグネスタキオンの兄弟にも勉強させてもらいました。基本、馬の特徴を表現する際に「柔らかい」は歓迎されて、「硬い」はネガティブに思われていますが、ある程度の硬さがないとスピードは出ない。短距離馬は総じて硬さがあるし、実際に弾むのはゴムマリじゃなくてスーパーボールって言えばなんとなく伝わるでしょうか?
梅田分かりやすい例えですね。
長浜フライトのほうが圧倒的に柔らかくて、タキオンは硬かったです。かたやダービー馬、かたや無敗の皐月賞馬。「最上級の柔らかさ」と「質の良い硬さ」を教えてもらいました。暮れのラジオたんぱ杯3歳Sのタキオンの加速力といったらなかったなー。実際に、アグネスタキオンが引退後に河内さんから直接聞いた話ですが、ラジオたんぱ杯出走時、「4コーナーで先頭から6馬身以内におったら、全部差し切れる!」と厩務員の大川さんに言って、返し馬に移ったそうで。そうしたら、4コーナー持ったまんまで、先頭並びかけましたもんね。あとは見ての通り独壇場。「2歳暮れの短距離戦ならまだしも、芝の2000であんなレースできる馬はおらんわな」と、河内さんご本人からお聞きして背中がゾクッとしました。
梅田いやー、本当に凄い馬ですね。それを伺った上で、当時のレースを改めて見てみます!伺っているこちらも勉強になります。ちなみに長浜さんは海外のセリなどにも行かれたりはするのでしょうか?
長浜この間、9月のキーンランドのセプテンバーセールに社長が行きましたので、それに一緒について行かせていただきました。吉田照哉社長についてまわって、いい種牡馬をたくさん見させていただいて、いいステーキをたくさん食べて帰ってきました(笑)。
このミーハーな気持ちは仕事をするうえでのすごいモチベーションになってる気がします
梅田学びもあり、営業をしたり、情報をそろえたり、人にお伝えしたり、業務はたくさんありますね。プライベートはあるんですか?
長浜ラジオを聞いています!だから聞きすぎて、「時刻は夕方6時を回りました、こんばんは吉岡里帆です」とか、「土曜日の夕方に皆さんの脳内でオープンいたしますスナック ラジオ、店主のリリー・フランキーです」とか全部頭に入っちゃっているの。これはさっきの話に戻りますけど、幼い頃にうちに不思議とベータのビデオデッキがあったんですよ。それで競馬を録画していたんですよ。父が商売をしていたので、後で見る用に録画していたのでしょうけど、それを繰り返し見て競馬の実況とかが頭にずっと入っていたんですよね。
梅田今でも思い出す杉本清さんのフレーズがあったりとかも…。
長浜杉本さんの実況で言えば、長浜博之さんのアグネスフローラの「アグネス先頭!アグネス先頭!ケーリーバック!ケリーバック!内からホクトフローラ、しかしアグネスがかわして先頭に立った!アグネスだ!アグネス1着~!」と。言えましたね、ちょっと震え上がっちゃいました(笑)。
梅田すごい!滑舌も素敵ですし、もしかしてアナウンサー試験受けていました?なんかもったいないですね、お声もきれいですし。
長浜いえいえ、ちょっとよくしゃべるお兄ちゃんくらいがちょうどいいんですよ。梅田さんの足もとにも及びません(笑)。素人の兄貴くらいがちょうどいいです。
梅田いい意味でオタク気質みたいなところがあるのかなと思います(笑)。
長浜そうかもしれませんね。そのしつこさが生かされていればいいですね。
梅田そのしつこさというか、好きじゃないとしつこさにはならないですからね。
長浜馬が好きで、競馬が好きで、競馬関係者が好きで、ミーハーな気持ちだけじゃだめなんだけど、このミーハーな気持ちは仕事をするうえでのすごいモチベーションになってる気がしますね。それだけじゃダメなんでしょうけど、そういう気持ちは大事に持っておきたい気がします。
長浜今後、長浜さんはこういうことをしてみたいとかイメージはありますか?
梅田これから吉田照哉さんの時代から吉田哲哉さんの時代になっていくなかで、吉田哲哉さんの時代になった時に哲哉さんの右腕になれるべく、慌てることなく普段から全ての面に置いて力をつけておかないといけないと思っています。これからどんどん速いスピードで時代も変わっていくと思うので、そこに対応していくべく力をつけていかないといけないと思います。アンテナを高くしていかないとついていけないよと、いうのは自分への戒めとしてあります。
梅田そうなんですね。これからも長浜語録を楽しみにしています。
長浜これも人生の先輩から教えてもらったことなんですけど、「やるなら何でも」ですよ。鑑定人の話じゃなくて、「引き受けた以上は徹底的にやれ」という教えを若い頃に叩き込まれていて、引き受けた以上は相手が引くくらいに全力でやれ。嫌々するな。何事も。これはアルバイト時代に叩き込まれたことなんですけど、鑑定人でも引き受けている以上は周りが引くくらいにちゃんとやらないとダメだなと。だからセリの直前は牧場の坂路に行って腹から声を出して発声練習をしたりするんですけど、それくらい煮詰めないとやらされている意味はないのかなと思っています。
梅田ストイックにひたむきに。私も今日はお話を通じて学ばせていただきました!これからも長浜さんのお仕事やセリ業務を応援させていただきます。今回はありがとうございました。
(構成:スポーツ報知 坂本達洋)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。