ゲスト
今井勝士 さん 胆振軽種馬農業協同組合

02. 45年間で変わってきた競馬の世界、そして変わらない競馬の楽しさ

45年間で変わってきた競馬の世界、そして変わらない競馬の楽しさ
胆振軽種馬農業協同組合に45年携わる今井勝士さんをゲストにお迎えしてお届けする梅田陽子の「ホースと共に!」。胆振軽種馬農業協同組合では、日高軽種馬農協、十勝軽種馬農協との業務提携による北海道市場業務も行っています。後編では、セールの現在の状況や組合の仕事内容、競馬への思いなどを伺いました。

競馬の売り上げが上がることが一番いいと思います

梅田今年はトレーニング、セレクション、サマーと3つのセールが終わって、いずれも売り上げは伸びている感じですか?

今井そうですね。ただ、トレーニングセールは、だんだんと上場頭数も少なくなってきて、過渡期かなという気はします。多い時は240頭とかいたんですが、今年は名簿掲載で103頭(上場頭数94頭)ですからね。

梅田どうして減ってきてしまったのでしょうか。

今井結局ですね、1歳のセリでたくさん売れるわけじゃないですか。そうしたら当然、翌年の明け2歳というのは少なくなるわけですよね。そういうことだと思います。あとは「ピンフッカー」ってご存じですよね?馬を仕入れて、次のセリで高く売るというのがあったんですよ。1歳で買って、トレーニングしてセリで付加価値を付けて売ろうという。ただ、セリの値段が高くなってきてしまっているので、そういう人たちが仕入れて買えなくなってきているというのもあるんですよ。そういったあたりもだんだん減っていっている理由だと思いますね。

梅田全体的に馬の値段が上がっていることで、馬主さんからもいろんな声が届きますか?

今井相場が高いという方もいますけど、競走馬は適正価格ってないと思ってます。欲しい人が二人以上いればどんどん高くなっていき定価がない、それがセリですから。あとはそれぞれの地方競馬で言えば、賞金額に見合った価格の馬を買うというか、それぞれ違うと思います。

梅田9月にはセプテンバーセールもありますね。

今井名簿掲載が586頭で、去年とほぼ変わりない頭数で3日間開催します。1日あたり200頭弱くらい上場されます。売却率、売上総額が昨年を超える成績を期待しています。

梅田やっぱりピラミッド自体が大きくなっていくことはいいことですよね。

今井仰るとおり、底辺が広ければ当然頂上も高くなります。頂上が高いと言うことは競争原理として強い馬できると思ってます。馬が売れるというので、だんだん生産頭数も増えていっていますが、最近は生産過剰気味ではないかとも言われてます。一方で競馬場に入れる頭数というのは決まっています。なので、去年よりも上場頭数が増えて、売却頭数が落ちたというのは、そのへんもあると思いますよね。

北海道で買った馬を輸出するために検疫する業務も

梅田今井さんのお仕事でセリというのが一番わかりやすい業務だと思いますが、それ以外は普段どのようなお仕事をされていることが多いのでしょうか。

今井セリがメインですが、いろんな生産対策の補助事業などの仕事もあるんですよ。JRAや地全協から資金で全国組織の日本軽種馬協会を通じて助成金が交付されます。例えば牧柵を更新するとか、新たに放牧地を作るとか、そういうことに助成金が出る事業などがあります。過去にもいろんな生産対策事業がりましたけど、そういう補助事業の事業主体になって、申請書類作成や手続きをやる仕事もあります。それとあとは競走馬保険の代理店業務などです。また、1995年まで日本軽種馬協会胆振種馬場としてスタリオンがありました。組合員数減少に伴い、あまり種付け頭数が少なくなったというので、その事業は廃止したんですが、その施設の有効活用として競走馬を輸出する検疫施設にし、その施設の管理運営を委託されてます。

梅田輸出というと、どういう時に使われるのでしょうか?

今井最近だと種牡馬ですね。今はモーリスとかサトノアラジン、パンサラッサ、ベンバトルの4頭が、オーストラリアなど南半球にシャトル種牡馬として行くにあたって、ここで検疫を2週間くらいやって、それからオーストラリアへ輸出されました。輸出するのに馬は何日間か検疫が必要なんです。それでそのための施設として使っています。他には、韓国や欧米、今はなくなってしまいましたが過去にはシンガポールなど、ここを使って輸出してます。また、それら検疫に関しての書類的な手続きも一部おこなっています。

梅田なるほど、いろんなことをされていらっしゃるわけですね

今井輸入は農林省の動物検疫所でやるのですけど、輸出は農林省から輸出検疫施設として認可を頂かなければなりません。

梅田セリ以外に研修会などもあるでしょうし、いろんなことをやっていらっしゃって、すごくお忙しく業務をこなしていらっしゃるように思います。

今井やっぱり、いろんな事をやらなくてはいけないというのはありますよね。もちろん組合員から何か言われたら、出来ることはやらなければいけないと思いますしね。

梅田私も軽種馬農業協同組合のお名前は存じ上げていましたが、実際にどんな仕事をされているんだろうと素朴に思っていましたので、すごくよく分かりました。

今井うちは55人ですが、日高は700人くらい組合員がいると思うんです。でも、大きくても小さくても、やる仕事の種類というのは同じだと思うので、量が違うけど種類は一緒だと思います。だから忙しい時は忙しいけど、忙しい合間を縫って趣味を楽しんでます。おかげでこんな真っ黒になってます(ゴルフ焼け)(笑)。

梅田今は胆振の組合のスタッフさんは、どれくらいいらっしゃるんですか?

今井今年1月に1人中途採用しまして、男性3人、女性1人の4人です。その前までは3人だったわけですが、私も今63歳なんですよ。60歳で定年になって、今は嘱託なので。終わりに近づいているので、そろそろ採用しないと、と言うことで1月に新しい職員を中途採用し、私は老後を楽しむと(笑)。

梅田今井さんの後輩を育成中ということですね。指導したり、いろいろ助言したりもされていらっしゃるわけですね。

今井僕は何も言わないようにしています。もう1人の若い職員がいろいろ教えてあげてくれているので、それで育ってくれたらいいなと思っています。

梅田その若い方々がセリでは鑑定人などを務めていらっしゃるのですか?

今井そうです。高橋というんですけど、これは鑑定人をずっとやっているんですよ。もうベテランですよね。僕が教えたわけではなく、自分で勉強してちゃんとやってくれています。

梅田頼りがいのある“右腕”というか、部下ですね。

今井そうですね。何も言わなくても仕事をやってくれるし、彼も高卒で入って、26年目かな。うまく育ってくれましたし、素質とセンスがあるんでしょうね。上司がこんなんなので、自分でやらないといけないなと(笑)。でも、そもそも僕もそうだったんですよ。僕が入った時って、すごい年配の参事の事務方のトップがいて、もう1人も一回り上の方で、いろいろあってすぐにやめてしまって、私も先輩に育てられたということが全くなかったと言っていいと思います。だから僕は今いる組合員、役員さんとか牧場の方々がいろいろ教えてくれて育てていただいて、本当に感謝していますよ。もちろんJRAや関係団体の人たちにも、いろいろと指導してもらいました。だから会社のなかで上司に教えられたというのは、なかったんですよね。だからこれは“我が社の社風”なんだと思いますよ。僕も今いる高橋も「自分で育った」という感じでしょうね。

梅田高橋さんも自分から鑑定人として学ばれたわけですもんね。

今井そうです。だからブリーズアップセールとかでも頼まれて行ったりして、やっていますよ。顔を見たら分かると思います。

梅田イケメンの方ですか(笑)?

今井そうそう、梅田さん好みかな(笑)。でも僕も45年いると、いろいろなことがありましたよね。本当に楽しかったですよ。

いろんな人と知り合って本当に楽しかった

梅田最近、北海道はどこでもそうだと思いますが、地震や災害が増えていると思います。組合さんでも対策に取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

今井前に厚真で大きな地震がありましたよね。2018年に北海道胆振東部地震があって、翌日に高橋と二人で被害の大きかった早来と厚真の牧場に被害状況を調査に行きました。道路も寸断されあっちこっちで土砂崩れがあり、あの時は牧場の被害がひどかったですね。その時はそれこそうちの上部組織の日本軽種馬協会から被害にあった方々に支援するお金を出したりしました。直接、うちの組合自体がやるというのは難しいので、国などに取り組んでいただくのが一番いいと思います。あとは台風や水害もありますよね。よく静内や日高地区で被害があったと聞きますし、そういうことがあると大変です。おかげさまで最近はそれほど大きなことは起きていませんけど。

梅田ないのが一番ですよね。先ほど、今井さんが後継者不足などの課題について話されていましたけど、そこについても取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

今井牧場だけではなくて、業界全体がそうですよね。厩務員もそうですし、育成牧場もです。今はBOKUJOBとかで新しい人を入れようとしていますが、今はうちの組合の牧場さんもそうですけど、インド人など外国人のスタッフが多くなってきていますよね。どの業界もそうだと思いますけど、そういう外国人の方を入れていかないと難しくなってきていますよね。

梅田人口そのものも減っていますからね。

今井ましてや生き物相手なので、本当に好きじゃないと務まらないというのはあるんじゃないですか。競走馬を育てる仕事は、昔は、危険、汚い、きついの「3K」と言われている職場ではあると言われてきましたが、今は、労働環境も昔と比べて変わってきてますし、働きやすい環境になっていますので、どんどん若い人に働き来て欲しいですね。近年は気候変動で北海道も暑い日が多くなってきましたが、本州に比べると過ごしやすい気候で自然豊かですし、私みたいにおおらかな性格の人間になりますよ(笑)

梅田だからこそ本当に好きな人に入ってきてほしいですよね。

今井そうですよね。最近は牧場で働いている女性も多いです。昔に比べたらかなり増えていると思います。

梅田それはうれしいことですよね。今井さんが今後、やっていきたいこと、やっていることで続けていきたいことは何かありますか?

今井45年間いて、すごく楽しい思いをしたので、もういいかな(笑)。

梅田それくらいやり切った感じなんですね。

今井耳に色鉛筆を挟んだ競馬好きオヤジとなって、馬券を楽しめればなと思います。昭和ですね(笑)。

梅田今井さんは馬からたくさん幸せをいただいていますね。

今井ここに入って、本当にいろんな人とお付き合いさせていただきましたし、お酒は飲まないですが飲み会に行ったり、好きなゴルフをやらせてもらったり、いろんな人と知り合って本当に楽しかったですね。あとはやっぱり、海外などに行けたのはよかったですね。凱旋門賞も2回行きました。

梅田へぇー!それはいつの年でしょうか?

今井最初に行ったのはディープインパクトが走って失格になってしまった2006年です。その時の感動は今でも忘れません。その後はオルフェーヴルが、まさかの2着。勝ったと思ったら2着だった時です。あとはいろんな研修で、イギリスやアメリカのオーストラリアのセリとかに行かせてもらったりもしました。今の若い人もそうなんでしょうけど、やっぱり海外に行くと刺激がすごいですよね。海外に限らず、そういうのを実際に現地で見たり聞いたり体験というのはね。

梅田今は海外に遠征する騎手や調教師さんも増えてきました。

今井僕が二十歳くらいの時にそういうのがあれば、また違った道に進んでいたのかなって思ったりもします(笑)。でも、本当にいろんなところに行かせてもらって、勉強させて貰い、楽しくいい職場ですよ。

本当に競馬ってライブで楽しむものだと思います

梅田馬を通して、いろんな世界が広がっていったわけですね。ちなみに今井さんは普段から馬券の方はお好きなんですか?

今井買いますよ。

梅田今でも昔でも、お気に入りの馬などがいらっしゃったら教えてほしいです

今井僕は今は種牡馬になっているリアルスティールが好きなので、リアルスティールの子の単複をたまに買います。たまに穴をあけたりするので(笑)。

梅田それってリアルスティール産駒を買うわけですね!?

今井そうです。興味というか好きで買っていますね。あとは馬券じゃなくて、一口馬主もやっています。

梅田楽しくてしようがないですね(笑)。

今井でも一口馬主って、馬主の気持ちじゃないですけど、いろんな経費や収支があって、競馬を使うとこれくらいの賞金や手当が入るんだ、という面でも勉強になりますよ。愛馬の出走が何より楽しいですしね。

梅田リアルスティールが好きだと、フォーエバーヤングとかの馬券も買われたり…。

今井買いますよ。でも分かったのは、馬券って絶対儲からないですよ(苦笑)。トータルとしてはそうなんですけど、儲からなくてもやっちゃう。

梅田そのぶん、予想したりする楽しみも大きいですからね。

今井ここの仕事をやめたら、ボケ防止に馬券を買わないといけないと思っています(笑)。

梅田うちの父もよく「競馬健康法だ」って言っています。数字も見るし、新聞を読むから目も脳も使いますし、計算もすると。レースも見て動体視力も上がるって、うちの父が言っています。私は“父仕込み”なんですけど(笑)。

2人アッハハハハ!

梅田最後に今井さんから競馬ファンに伝えておきたいことってありますか?

今井競馬って在宅や場外とかグリーンチャンネルとかもあるんですけど、やっぱり競馬って“ライブ”なんだと思うんですよ。本当に競馬場に行って、実際に走っているところを見ると、すごい感動しますよね。ぜひ競馬場に行って、実際に馬を見て、走っているところを肌で感じてもらえれば、もっと好きになると思うんです。ギャンブルはギャンブルなんですけど、ロマンもいろいろとあるじゃないですか。ドラマもあるし。僕もいまだにそうなんですけど、ダービーとかGⅠに行くと、見ていて鳥肌が立つんですよね。ファンファーレが鳴った時の場内の盛り上がりとか、本当に競馬ってライブで楽しむものだと思います。ぜひ中央も地方も含めて競馬場に足を運んでもらいたいですよね。

梅田あのサラブレッドの美しさというのは、実際に見ないと分からないですもんね。

今井あとは見学できる所の牧場は限られていますけど、そういう所に足を運んでいただいたりしてもいいと思います。ノーザンホースパークなんか、実際に触れますしね。世界のゴールデンシックスティがいるんですよ。見に行きました?

梅田それが、まだなんですよ(苦笑)。

今井何やっているんですか!僕は2回も見に行きましたよ(笑)。セレクトセールに行った時に一緒に行った人が見たいというので見に行ったんですよ。そうしたら(主戦の)ホー騎手もちょうどいたんです。馬の近くにいて誰だと思ったらホーさんでした。2回見に行きましたけど、本当に香港からのファンも実際に来ていましたし、ぜひそういう所も行って見てもらいたいなと思います。そうしたらもっと好きになりますよ。馬券も当たるかもしれないし(笑)。

梅田当たるといいな(笑)。今井さんの馬券も当たりますように。とても興味深く、そして楽しいお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました!

(構成:スポーツ報知 坂本達洋)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。

※この記事は 2025年10月8日 に公開されました。

×