02. 「セカンドライフ」として牧場を今、作ろうと思っているんです
九州や八戸、果ては乗馬馬のセリ市の鑑定人まで、忙しく飛び回る毎日
梅田確かに浅野さんというとマニアックとか、そういうイメージがありますよね。拝見していてそうでした。その後はいろいろな原稿を書く以外にも、セリに行かれたり、アイドル研究をしたり…。
浅野それ(アイドル研究)は関係ないな(笑)。セリについては、日高軽種馬農業協同組合に、こういうふうにしたらいいんじゃないですかと提案したら、「ああ、やろうやろう」と即返事をいただけて、それでセリの司会、進行というのをさせてもらうことになったんです。その後、八戸のセリ市の松橋康彦参事に「うちもちょっと手伝ってくれ」と言われたのが2002年あたりですね。それで九州のトレーニングセールも手伝ってくれと言われて、それは2004年のことでしたかね。
梅田八戸や九州にも参加されるようになって、すごいことですよね。それで今年の「九州1歳市場2025」のセリはいかがでしたか?
浅野それが「めっちゃ、ありがとうございま~す!」という感じでした。上場頭数が35頭で売却頭数が25頭。売却総額で9000万円近く売れたので、金額ベースではレコードですね。今年はどうなのかなと思っていたら、すごく売れましたね。私もめっちゃしゃべりましたよ。体重が1キロは減ったわ(笑)。
梅田九州のセリ市も全体的に金額は上がっているんですね。
浅野4ケタ万円の落札額はないんですけど、去年はネロ産駒のスマイルヴィオラの子で税抜き760万円ですか。だから700万円台が2年連続で出ているのはすごいですね。上場頭数が20頭いかない年もあって、九州産馬が1年か2年、50頭を下回った年もあったんですよ。そこから復活してきて、全体の市況も良くなっているので、それに乗っかっている面はあるんですけど、ものすごいことですよね。このままだと「ひまわり賞」(JRAの九州産馬限定2歳オープン競走)がなくなるなんてことは、たぶんないなというくらい膨らんでいますね。
梅田よかったですね。35頭も上場されて25頭が売れたことはすごいです。
浅野それに関連していることなのか分かりませんが、こうやっていろいろとやっているじゃないですか。それで原稿の仕事がまあまあ増えてきて、僕はここ9年か10年で原稿を1本も書かなかった日が1日もないんですよ。それで先週の土曜日にももクロ(ももいろクローバーZ)のあーりん(佐々木彩夏さん)のソロコンに行って、そのまんま羽田空港に行って、ピーチの深夜便でソウルに行って、それでソウル競馬場に行って、フェスに行って、空港で仮眠して、大韓航空で鹿児島に行って、それで九州1歳市場のセリに行っているんですよね。その合間に原稿を書いているんですよ。だんだんと年を取ってきて、無理がきかなくなっているところではあるんですけど、何とか無理はきいてますね。
梅田完全にノマド(オフィスに縛られない働き方)生活というか、いろんなところでお仕事をされて、あちこち飛び回っている感じですね。
浅野それも運がよかったんですよね。そもそもネット投票がここまで普及していなかったら、地方競馬は壊滅状態になっていたと思いますし、JRAも今みたいに売り上げが好調だったかは怪しかったと思うんですけどね。ネット投票があるおかげで、こちらにも(競馬が盛り上がることによって)恩恵がきているという部分がすごいありますからね。それも「運がよかった」のうちに入りますよね。
梅田その他にやっていらっしゃるお仕事ってございますか?
浅野セリだと乗馬の馬のセリ市の鑑定人。年に数回ですけど、次は10月に北海道の釧路でありますね。
梅田そこにはどんな馬が出てくるのですか?
浅野ポニーとか、サラブレッドの元競走馬で乗馬としての訓練をし終わった馬とか、乗馬として大会に出た実績のある馬も出てきます。
梅田サラブレッドのセリだけではなくて、乗用馬のセリもされていたんですね。
浅野それは原山実子さんに紹介してもらったものなんですが、人がいなくて困っているからお願いできますかって。原山先生のお願いに嫌とは言えないので、しようがねえなあ、と(笑)。
梅田乗用馬のセリだと何頭くらい上場されるのでしょうか?
浅野去年の釧路だと25頭くらい出てきて、ほぼ完売でした。
梅田サラブレッドとは血統が全然違いますよね。
浅野全然分からないから、書かれていることを言うだけですよ。日本スポーツホース種とか品種の説明など、進行に徹しているので。
梅田調べてみましたら年齢も様々みたいですね。
浅野でも、基本的には若い馬しかいないかな。10歳を超えているのは、そんなにいないですね。兵庫の三木ホースランドパークで開催されている「兵庫ヤングホースオークション」という新馬限定のセリもあるんですよ。
梅田新馬限定ですか?
浅野競走馬を引退したばかりの馬とか、2、3歳馬とか、乗用馬として生産された馬で競技歴のない馬が出てくる限定のオークションもあるんですよ。
梅田そういう馬は高いのでしょうか?
浅野次はたぶん秋にあると思うんですが、最高価格は220万円くらいかな。それくらいですよ。
梅田個人で買いに来る方が多いのですか?それとも乗馬クラブの方がいらっしゃるのでしょうか。
浅野乗馬クラブさんが多いですね。とにかく僕は頼まれたことは何でもやるだけなんで(笑)。
泣きながら原稿を作るしかないですよ
梅田さらに他にもこんなこともやっているよ、というのはありますか?
浅野新型コロナウイルスがはやってしまった影響で、逆に原稿の仕事がめっちゃ増えたんですよね。新型コロナの時期から原稿の仕事がすごく増えたおかげで、ちょっと今はぎりぎりいっぱいかなという状態です。
梅田新型コロナの時期から仕事の仕方に変化はありましたよね。
浅野う~ん、量が増えただけですね。1.5倍くらいになっちゃったんで、割とスケジュールはきゅうきゅうですね。時々、このままでは破綻するかも、みたいなこともあるので(苦笑)。スケジュールが逼迫しすぎて、年齢的にもそろそろリタイアしたいので、「セカンドライフを考えていかないとね」という感じでございますよ。
梅田いや~、しばらくは無理でしょう。
浅野でも、そういうことを考えないといけないんですよ。年齢的に。
梅田浅野さんがおっしゃるように「ワーッ!仕事がいっぱい!パニック!」となってしまった時は、どうやって気分転換をされているのでしょうか?
浅野そりゃ、全部やるしかないですよ。泣きながら原稿を作るしかないですよ。気分転換なんて、ないないないない。たとえば以前に原稿を1日に23本も出したことがあるんですよ。そういう時は悲しくなりますね。それに近い状態の時に「ももクロ」のコンサートに行った時には、これちょっと死んじゃうかもしれないなって思ったりしましたもん。京王線の調布駅で頭痛薬を飲んでからコンサートに行くような有様で…。まあ、なるべくこれ以上は増やしたくはないなと思いますね。
梅田過去にナムコさんをやめられて大変だった時期のことを思うと、ありがたいというところもあるようにも思えますが…。
浅野はい。でも、これはいつまでもできるわけではないことですよね。こんな感じで原稿を書く人生って、あと10年やれと言われたら、おそらく無理だと思うんですよ。どこかで脳血管が切れてしまうと思うんです。だから、その前に何とかしたい、とは思いますね。
牧場を今、作ろうと思っているので
梅田とにかくお忙しい浅野さんですが、そんなお父様の姿を見て家族(奥様や娘さん)からは何か言われたりしますか?
浅野別に何も思ってないんじゃないですかね…。あんまりあれこれ言われない感じです。韓国に行っていても、「今日、どこにいるんだっけ?」みたいな、そういうレベルなので。それはそれとして、いずれにせよ「セカンドライフ」がキーワードになるんですよ。宮崎に今、繁殖牝馬を1頭預けているんです。
梅田えっ!?浅野さんのですか?
浅野それで今年4月にネロ産駒の牝馬が産まれたので、セリに行く仕事のついでに見に行ったんですよ。なかなか(馬体の)バランスはいいかなと思います。この子はセリに上場します。
梅田浅野さんの馬として走らせるんじゃなくて、セリで売ってしまうんですか?
浅野はい。あともう1頭、今1歳のマスターフェンサー産駒の子がいまして、その子は北海道の静内の友人の牧場に預けています。この子はセプテンバーセールに上場します。これはあまり人には言っていない話ですけど。
梅田2頭ともセリで誰かに買ってもらって、走らせてもらうということですね。
浅野それが「セカンドライフ」ですね。牧場を今、作ろうと思っているので。それでも原稿の仕事自体がアホほどあったりして、予定より4年ほど遅れています。新型コロナウイルスのせいで計画が狂った部分もあるんですけど、それで逆に仕事と収入が増えたからそれができるという部分もあるんですよね。このまま原稿を大量に書いてばかりいる人生は、体の中が“よどむ”だけだなという気がして。それで何か動かなきゃと思って、その取っかかりとして、おととしの繁殖牝馬セールで1頭買ったんですよ。
梅田そういうことだったのですね。その繁殖牝馬セールでは誰か競ってきた人はいたんですか?
浅野競り合うことはなく一声でした。それで九州に連れて行って、子供が無事に誕生して無事に育ってくれればという思いですよね。
梅田売り主は浅野さんご自身のお名前で出るのでしょうか。
浅野売り主はね…、自分の名前にしちゃった。友達の名義を使わせてもらったりして今までは全部隠していましたけど、そろそろいいかなと思って。
梅田そろそろいいなと思った、その心は?
浅野タイミング的に手続きが間に合わなかったというのが理由の一つにはあるんですけどね。本当なら会社をつくろうと思っていたんですけど、そこは「浅野靖典」にするしかなかったです。
梅田そうなんですね。次の「セカンドライフ」に向けて、心が固まる部分もあるのではないでしょうか。
浅野その前に九州軽種馬協会に入会しているので、だいたいの人にはバレてはいるんですけどね。あと、地方競馬の馬主の免許も取って、現役馬は3頭いるんです。
梅田今はどこに預けていらっしゃるんでしょうか。
浅野金沢2頭と岩手1頭です。
梅田自分の愛馬が走るのをご覧になった気持ちはいかがでしょう。
浅野それが僕、あんまり現地では見ないんです。金沢でも現地で見たのは2回だけ。でも、その時は3着と4着でした。それで3着になったレースの時にスポーツ新聞社から「今日の原稿まだですか?」と電話がかかってきてしまい、自分の馬が走っている時にモニターをちらちら見ながら一生懸命に原稿を打っていました(苦笑)。
梅田本当にどこでも仕事をされていらっしゃいますね。
浅野ノートパソコンがあれば、自分の家にいる必要がないですよね。それは善しあしですわ。
縁の下の力持ちがたくさんいることは意識しておいてほしい
梅田仕事から逃げられませんからね…。あと浅野さん、キャスター業やライター業をご経験された今だから伝えられること、伝えたいことってありますか?
浅野競馬って、みんなから見える表舞台だけではなく、見えないところもあるわけです。牧場で毎日同じことの繰り返しをしている人たちがたくさんいるということは、牧場巡りをしている時に本当に実感しましたからね。こういう人たちの礎のもとに華やかな世界があるということは、常に忘れちゃいかんな、という気持ちではいますね。
梅田確かにそうですね。当たり前のことを当たり前に地道に続けてこられた方々がいらっしゃって、華やかな世界があるわけですものね。
浅野レースで最下位だとしても、最下位の馬の後ろには何人もの人がいるので、それは忘れないでおきたいですよね。競馬のマスコミって、当たったの外れたので終わっちゃうところもあったりして、薄い面もあるんですよ。確かにライトな層も含めてたくさんのファンがいないと競馬産業が成り立たないので、それはそれでいいのですけど、発信している側は常に感謝というか、縁の下の力持ちがすごくたくさんいることは意識しておいてほしい。ライトファン向けの情報を出すにしても、そういう意識は根底に持っておきたいなと思いますね。そういう意味を含めて、少しでも馬に乗っておいてよかったと思います。競走鞍で乗馬の馬に乗ったことがあるんですけど、アブミを短くして、それで馬場を1周して…。もう騎手の悪口を言うのはやめよう、と思いましたもんね(苦笑)。
梅田騎手の方々や毎日乗ってらっしゃる助手さんとか、ああやって日々馬に乗って鍛錬されていること自体が本当にすごいことだなと思いますね。
浅野それが毎日のことなんですよね。地道な作業を何十回とやって、その先に1回のレースがある。そういうものの上に華やかなお客さんの前で行われるレースがあるということは意識しておきたいです。
梅田私も浅野さんのその言葉、肝に銘じます。
浅野あと中央や南関東の競馬場に行く時、僕は取材証をもらわないんですよ。基本は“裏”に入らない。あくまで客のスタンスで行こうと思っていて、そういう意識は常に持ち続けていたいですね。
梅田あえてお客さんの目線で、みたいな感じでしょうか。
浅野検量室前とかには基本は入らず、客の意識を持っていたいですね。
梅田初心を忘れず、常に同じポジションでいらっしゃるということですよね。
浅野そんな高尚な考えではないですけど(苦笑)。
セリでいい人に買ってもらえたらいいなということです
梅田今後の夢とか目標とか改めて教えてください。
浅野梅ちゃんがどう思っているかは分からないですけど、正直だいたいやりたいことはやり尽くしているかなという気がするんですよね。今さらテレビにたくさん出たいとかは思わないし、どちらかと言うとそっちじゃない世界に行きたいなと思いますね。今度8月に56歳になるのでね。
梅田つまり、自分の中で納得のいくことがしたいとか、こういうものを書きたいとか、媒体云々とかではなく、そのものの「質」にこだわりたいということでしょうかね。私も同じことを思います。
浅野仕事はしたくない(苦笑)。そういう野心はないですね。野心があるとしたら、今いるマスターフェンサーとネロの産駒をいい子に育てて、セリでいい人に買ってもらえたらいいなということです。もうちょっと繁殖牝馬を増やしたいな、とかね。現役馬をもうちょっと増やしたいなとか、そっちの方面ですね。
梅田馬で楽しみたいんですね。先輩にこういうことを申しあげて失礼かもしれませんが、浅野さんって、変な欲がないから(笑)、いい仕事をされているというところはありませんか?無心になって今を大事にできるから、いい仕事がいっぱい来ているように思えます。
浅野それは浦河の某育成業者の社長とも考えが一致しているんですけど、真面目にするしか能がないので。真面目にさえ、ちゃんと誠実にさえやっていれば、あとからそんな悪いことにはならないという風には思いますね。
梅田どんなことにも手を抜かないということですね。
浅野手を抜かないというのは自己評価だから、受け取った人に「何だよこれ」と思われたらしようがないので、そう思われないようにしないといけないですよね。でも、仕事がいただけるのはありがたいことですよ。運がよかっただけですよ、本当に。
梅田運も実力のうちですよ。
浅野運も実力って言いますけど、確かにオーディションを通過できたのも結局は運ですよね。あと美野さんであり、静内のセリの司会に起用してくださった日高軽種馬農協の参事の小園さんだったり、須田鷹雄さんであり、松橋参事であり、いろんな人に引き上げてもらったというところはでかいですね。
梅田やっぱり人との出会いですよね。競馬業界も含めて、そういうものですよね。
浅野逆に梅ちゃんは野望はあるの?
梅田私も表に出たいというよりは、ひとつひとつの仕事の質を上げたいということを意識しています。意識が外ではなく、自分の方に向き始めた感じです。目立ちたいとか、そういうことではなくて。
浅野最初に中継のコンビを組んだ高瀬有紀子さんに「浅野さんって、アナウンサーにしては我がないよね」って言われて、言われてみればそうだなと思いました。
梅田それも浅野さんの素敵な個性だと思います。みんな我が強いと、見ている方も味が濃すぎて疲れますよ。今の時代は昭和の時代とは違うことが求められていると思います。
浅野これって変えられないものだよね。みんなの役に立てればいいのかなと思っています。九州1歳市場のセールも、ほぼ上場者の方を知っているので、少しでも喜んでもらえたらと思ってやっていますし、実際に喜んでもらえた人も多かったです。確かに10頭売れなかったことは、残念なんですけど。
梅田社会に貢献していく世代に入ったなと思っています。私も。
浅野来年の九州セールと八戸のセリ市をよろしくお願いいたします。セレクトセールやセレクションセールもいいですけど、九州と八戸のセリ市もよろしくお願いいたします。ご来場お待ちしております!
梅田浅野さん、素敵な宣伝もありがとうございます(笑)!私も誠実に仕事に向き合って信頼を結んで、これからも成長していきたいなと改めて思いました。浅野さんとは地方競馬中継のスタジオで何度もお世話になっていますが、ゆっくりお話する機会は初めてでした!楽しかったです、ありがとうございました!
(構成:スポーツ報知 坂本達洋)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。