02. 調教師になって変わったこと、変わらないこと
調教師になってから感じた騎手への新たな見方
梅田お2人は調教師になられてから、競馬に対する考え方で変化はありましたか。
小野それは変わったと思います。ジョッキーから見る競馬の視点と、調教師から見る競馬の視点って違うんです。当然どちらも勝ちたいというのはあるんだけど、騎手は1頭の馬にずっと乗れるとしたら、どうやって育てていくか、そのなかで負けることもあると割り切って考えたりもできる。でも調教師の場合は、とにかく勝って結果を出さなくてはというところが出てくるわけですよ。微妙なズレは、あるんじゃないかな。ジョッキーの時は自分が失敗したら、自分で反省すればいい。だけど調教師は、馬主とかいろんなところから怒られるんですよ。レースも自分が乗るわけじゃなくて調教師は見ているだけで、パドックでジョッキーの足を上げるくらいで何にもできない。だからジョッキーの方がいいですよね(苦笑)。
梅田勝ちにこだわりたいですもんね。
小野ジョッキーはある意味、自分1人のことで済んでしまうけど、調教師は従業員もいるし、今でこそ馬主と騎手の距離は近づいているけど、昔は僕たちが馬主と話すには調教師が間に入って話をするような時代もあったので。ジョッキーだったら、「いや~、へぐった…」ってレース後に苦笑いしたりしても、調教師は笑えないですよ。へぐられちゃうと。
梅田多くの馬や厩舎スタッフを預かっているリーダーですものね。改めて責任も大きいお仕事だと思います。
小野僕の今の楽しみは、カッちゃんはこのあいだ開業したばっかりじゃないですか。いつまでこのキャラクターで勝春はいられるのか。勝春も変わるのか、って様子を見ていきたいなということなんです。
田中勝ハハハハハ、まだ困難にぶつかってないから(笑)。
小野やっぱりカッちゃんは変わらない、すごいな、って思われるのか。お前もやっぱり変わったか、ってなるのか。田中勝春調教師を観察していくことが僕の楽しみです(笑)。
田中勝自分でもね、どっちに転ぶのかなって思うことはある。こればっかりは未知だからね。調教師を始めたばっかりで、これからどんな困難がぶち当たってくるかも分からないので。そこからだね、人間が変わるのかどうかは。
小野今、格好良く困難とかいう言葉を使っているけどさ、当たったことあるの? 今まで。
田中勝軽くスルーしてた、今まで(笑)。
梅田開業にあたって大変なこともあったのではないですか。
田中勝それがね、大変だったのか分からないんだよね。大変じゃなかったのかもしれないし。
小野嫁さんの方が大変かもしれない。
田中勝そうかもね。こっちがやっていることを何も知らないからね。うちの奥さんは、次郎さんに聞きに行ったりなんかして。
小野だって嫁さんが「カッちゃんが何も教えてくれないから分からない」って言うくらいだもん(笑)。苦労を知らないよ。それでいいの?
お互いを知り尽くす
梅田勝春先生は、もともとの性格がそうなんですか?
田中勝そうねえ…、たぶんね。だから恵まれているんだ(笑)。
小野俺も結構好き放題に生きているけどね。でもカッちゃんは俺よりも自由に生きている。うらやましいもん。
梅田勝春先生から見た次郎先生はどうですか?
田中勝結構、物の言い方は激しいからね。そんなに頑張るなよ、と見ていて思う時もあるしね。本当(の性格)は違うのに一生懸命やってんだなって。
2人アハハハハハ。
梅田次郎先生から見た勝春先生はどうですか?
小野いいキャラクターだなと思う。なんか楽しそう。何を考えているんだろうって。何も考えない方がいいのかもしれないね。
田中勝何を始めるにしても、やっぱり最初が肝心だよね。調教師になって、俺も最初から真面目なふりをすると息が詰まるなと思ったから。最初から崩していった方がいいかな、って思いながら始めたからね。
梅田そうなんですね。自分がジョッキーだった時と、調教師になってからのジョッキーに対する見方の変化はありましたか。
田中勝俺は「自分をあてにしていなかった」から、いざ調教師になっても他のジョッキーもあてにしていないところがあるんだよね。ほとんど客観的に見ているだけで、「ああ、へぐったなあ」とか淡々と。
小野あてにしてるから腹が立つ。あてにしていなければ、腹が立たないって?
田中勝そうそう、腹立たないじゃん。
小野あ、その考え方、自分も使わせてもらおう。馬じゃなくて、ジョッキーにか。それはありかもね。
田中勝自分に置き換えたら、そうだなと思って。自分だってジョッキーの時に自分自身に期待をしてなかったから。「馬が走れば、勝つだろう」みたいな感じでいたからね。だから、負けた時は馬が走らなかったと思うようにしていた。
ジョッキーだったからこそ今に生かせている財産
梅田騎手だった経験が調教師になって生かせていることはありますか。
田中勝生かせているというか、考え方とかはあると思う。乗りやすい馬をつくりたいな、と思っている。誰が乗っても、ちゃんと走ってくれる馬。乗りづらい馬をつくっちゃうと、それが競馬でマイナスからのスタートになっちゃうので。力を出し切るには操縦性の高い、コントロールの利く馬じゃないと、毎回力は出せないと思うんだよね。そういう基本的なところで。
小野やっぱりそうだね。成績を出すためには、騎手が乗りやすい馬っていうのが成績を出しやすいし、乗りにくい馬はマイナス材料が増えていくだけだしね。自分もジョッキーをやっていたから、騎手が失敗したレースとかは、見ていて分かる。失敗したというだけじゃなくて、どうして失敗したかが分かる。その点でジョッキーとコミュニケーションは取りやすいですかね。ただ、勝ちました、負けました、次どうですか、具合良かった、悪かった、だけじゃなくてね。レースの流れのなかで、どうだったか、もう少しこれたんじゃないか、思いのほか走れなかったな、とかの判断が出来ていると思う。ジョッキーをやっていたぶん、そういう擦り合わせは、よりできていると思う。
田中勝負けた原因があって、それが具体的にどうだったのか判断できるのは、ジョッキーをやっていたからこそできる面があるかもしれない。
小野実は正直、2着、3着に来ていても、レース自体のレベルが低いこともあるんですよ。でも、オーナーとか、いろんな携わっている人たちが、「次は勝てるんじゃないか」という判断がする。それはお客さんも一緒ですよね。でも、「あれ、この感じだと次のレースはどこもないな」っていう感覚が僕らはあるんですよ。上位に来られてもレースレベルが低かったりすると。
田中勝上手に乗ったのに2着、3着で負けた馬って、次はこなかったりする。
小野MAXに乗り役が完璧に乗ったうえで、2着、3着では能力が足りないんですよ。完璧に乗ってそれだと、逆にきついよね。みんなに「次は勝てるじゃん!」って思われてしまうので。
田中勝実際は「ちょっと…」ってことはあるもんね。
梅田はたから見たら、伸びしろがあるように思えてしまいます。
田中勝そこなんだよね。失敗して負けた時の方が、次は勝てるなと思えることはある。逆に前向きになれたりするね。
梅田その感覚は面白いですね。すごく面白い話を聞かせていただいて。実際にそういう経験をされてこられたからこそ、説得力があります。
田中勝しょっちゅう失敗してたからなあ。
小野ほんとほんと。ファンの皆さんが気がつかないところもあるかもしれないけど、乗り役は失敗することが多いんです。そういう話になると、競馬って難しいよね。ファンから見る目線と、僕たちから見る目線が違っていて、なかなか難しいところなんだよね。擦り合わせても、なかなか違う感覚で見ているところは多々あるから。
梅田なるほどですね。さて、ここまでたくさん楽しいお話を聞かせていただきました。それでは最後にファンの皆さんへメッセージをお願いいたします。
小野僕の厩舎の馬のファンになってくれて、YouTubeとかX(エックス)に載せてくれている方とかがいらっしゃるんですけど、まだ大きいレースに出られる馬はいませんが、ファンが応援したくなるような馬を育てていければいいなと思っていますので、頑張ります。ファンが応援してくださっているのは、結構見ていますよ」
田中勝俺はまだ駆け出しなので、とりあえず応援してくださいと。ハハハハハ(笑)。
梅田先ほどのお話で次郎先生が、勝春先生がどうなっていくか見届けたいとおっしゃっていました
田中勝ぜひ見届けてください。こんなに太っちゃうかもしれないもんね(両手を顔にあてながら)。
小野皆さんで調教師・田中勝春のこれからの成長ぶりを温かく見守ってください。どっちにころぶか(笑)
(構成:スポーツ報知 坂本達洋)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。