ゲスト
花子ヴェリアン さん

02. 馬文化のポジティブな面をたくさん発信していきたい。

馬文化のポジティブな面をたくさん発信していきたい。
イギリスの調教師ロジャー・ヴェリアン氏夫人の花子ヴェリアンさんをゲストにお迎えしてお届けする、梅田陽子の「ホースと共に!」。後編では、自身のブランド「ニューマーケット875」を立ち上げるきっかけともなったヨーロッパ競馬の現在の状況を中心にお話を伺いました。

ロジャー・ヴェリアン厩舎の経営

梅田日本かイギリスか、仕事の拠点で悩んでいた頃に、旦那さまのロジャー・ヴェリアン(調教師)さんと出会ったんですか?

花子そうですね。当時はマイケル・ジャーヴィス厩舎のアシスタントトレーナーでした。なんか、イギリス人らしくない人だな~と思いました。彼自身がアメリカにいたことがあって、外の世界を知っていたからでしょうね。私の考えも受け入れてくれるし、器の大きさを感じました。

梅田ご結婚後も、ロジャーさんが厩舎を開業なさってからも、ダーレーのお仕事を続けていましたよね。

花子はい。2人目の子が生まれるまでは、産休を取りながら働いていました。辞めたのは3人目の子が生まれた時ですね。魅力的な仕事ですが、うちの厩舎も大きくなっていましたし、40歳になる頃だったので次のステップに進みたいなと思ったんです。

梅田いまは、旦那さまのロジャー・ヴェリアン厩舎の経営を、ともに担っているんですね。いま、どのぐらいのスタッフがいるんですか?

花子ダーレーを辞めた当時は、100人、160頭ぐらいだったかな。今も同じスタッフ100人、馬の頭数180ぐらいです。いろいろな国の人がいますから、それぞれに学歴もコモンセンスが違うんですよね。それを、うまくまとめるのは大変です。もう毎日、何かが起こりますよ(笑)。

梅田かなりの大所帯ですもんね。

花子でも、毎日のスタッフ同士の細かなコミュニケーションや、オフィス仕事は、それぞれ担当する人にお願いしています。私は、ビジネス面の方向を大きく変えようとするときになどに、一緒に考えることが多いですね。あとは、珍しい症例などが出ると、俄然張り切ります(笑)。

「ニューマーケット875」立ち上げ

梅田獣医を目指していた花子さんにとって、一番興味があるところですもんね。そんな、ご多忙な中で、ご自身のブランド「ニューマーケット875」を立ち上げたのはナゼですか?

花子日本にいると感じないと思いますが、今、ヨーロッパでは競馬は劣勢なんです。イギリスではBBCなどメジャーな局でも放送しなくなったぐらいです。

梅田それは、初めて知りました。

花子でも、ニューマーケットには360年、競馬とともに歩んできた歴史があります。それを、守るために何かできないかを考えました。だって、すごいことですよ。この地域には3000頭の馬がいて、馬用の信号がある。その信号を見て、馬のためにみんな車を止めるんです。馬の病院が3つもあるし、こんなところ、そうそうないですよ。その文化を大切にしたいと思って、2年ほど前に立ち上げました。

梅田ブランド名の由来は?

花子875で、ハナコですよ。

梅田あぁ~、そういうことですか!

花子昨年は馬事公苑やセレクトセールなど15か所でのイベントに参加させてもらいました。ドバイのメイダン競馬場にも、商品を置いてもらっています。商品を見てパッとニューマーケットをイメージしてもらえるようにしたいですね。そして、ブランドを通して人と馬つながりやストーリーを伝えたいと思っています。そうそう、カタログのモデルをライアン・ムーアが引き受けてくれました。彼もまた、競馬の危機を感じているからこそ、協力してくれたんだと思います。

梅田正直なところ、日本にいると、危機感はあまり…。

花子日本の競馬に影響が出て、関係者の方が気づくのは10年ぐらい先ですかね。でも、この何年かでギリシャ、シンガポール、マカオなどで競馬がなくなりました。ギャンブルの側面もありますが、動物愛護の観点もあるんですよね。ムチを打って、馬を走らせるのはかわいそうだって。ダービーの日に抗議団体がコースに乱入してニュースになりましたよね。

欧米での競馬の状況

梅田過激にアピールする団体があるんですね。

花子ネット社会の今、誰もがSNSで情報発信ができますし、ネガティブな面が簡単に配信できるんです。それもあって、欧米では長年競馬を楽しんでいらした著名人のオーナーの中には競馬と距離を置こうと考えている方もいます。

梅田競馬発祥のイギリスでもですか!?

花子先ほどもお話したように、BBCで競馬の放送がないぐらいですからね。若い人の関心も薄れています。昔と違って、馬と関わることが、あまりないですから。そうなると、人材育成の問題も出てきます。競馬を続けていくには、毎日の調教に乗る人も、ジョッキーも欠かせません。その人数を確保できない時がくるかもしてない。だからといって、ロボットを乗せるわけにもいきませんし…。

梅田日本でも海外から乗り手をって話はありますが、世界全体で人材が不足したら大変なことになります。

花子日本でウマ娘やダビスタなどのゲームが流行るのは、競馬がポピュラーだからですよね。それって、スゴイことだと思います。でも、世界の競馬が衰退したら、遠征先もなくなります。

馬文化のポジティブな面を、たくさん発信していきたい

梅田日本でだけ競馬が盛んでも、意味がないんですね。そのためには、馬文化を広めていく必要がありますね。

花子そうそう。それで、日本でポニークラブを作ろうって動きがあるんです。理事にはオリンピックの経験者の方もいますよ。そこで、顧問に入れてもらいました。日本の乗馬って大半が元競走馬ですよね。だから、子供が乗ろうとすると、いきなり大きな馬に乗らなくちゃならないんです。

梅田乗った時の目線が高いし、いきなりは怖いですよね。

花子そうですよね。バイオリンのように、体の成長に合わせて馬のサイズも大きくなるのが理想です。最初は小さなポニーからとなれば、子供が怖い思いをしなくてすみます。それを、どう進めていくか。これが、自分の中の次の課題となりそうです。

梅田たくさんのプランがありますね。

花子競馬はいつまでも、ポピュラーなスポーツであってほしいんです。そのためにも、馬文化のポジティブな面を、たくさん発信していきたいですね。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

梅田 陽子
セントフォース所属。学習院女子大在学中より、日本テレビ「きょうの出来事」お天気キャスターとしてデビュー。2006年よりグリーンチャンネルキャスターとして、中央、地方競馬に携わっている。情報、スポーツ番組MC・リポーター、イベントMCとして活動中。馬とお酒と音楽(ピアノとチェンバロとパイプオルガンの演奏をします)が好き。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。

※この記事は 2025年4月16日 に公開されました。

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