01. 戦前から馬産を続けてきた三嶋牧場
テーオーロイヤルで天皇賞・春を制覇
細江戦前から馬産を続けてきた三嶋牧場(1960年に法人化)。現在はBTCを利用しての育成にも力を入れている老舗牧場です。今年は生産馬が2つのGⅠ含め、重賞7勝。長い三嶋牧場の歴史の中でも、かなりいい年になったように思いますが。
三嶋よくできた1年でしたね。特にGⅠ制覇は運も味方してくれないとできないものですし、勝てて良かったです。
細江まずは、天皇賞・春を制したテーオーロイヤルですが、右後肢の寛骨骨折で11か月の長期休養をとって、23年アルゼンチン共和国杯から始動しました。このレースこそ10着と大敗しましたが、そこから春の盾を制すまでは、どうご覧になっていましたか。
三嶋ステイヤーズS(2着)、ダイヤモンドS(1着)、阪神大賞典(1着)と長距離の重賞を3連戦しての天皇賞・春への参戦でしたから不安はありました。
細江当日は、京都競馬場にいらしたんですよね? そんな不安を吹き飛ばすレースぶりで、4番手追走から最後の直線で堂々抜け出してきました。
三嶋スタートを出て、包まれることもなくいい位置につけられましたし、折り合いもよかった。手応え良く4コーナーを回ったので、「これは勝てるんじゃ」と。
細江馬も頑張りましたし、菱田裕二騎手も攻めたいい騎乗でしたね。騎手自身にとっても大きな1勝となったと思います。
三嶋岡田稲男厩舎所属の騎手として、ずっとロイヤルに乗り続けてくれました。初GⅠ制覇だったそうですが、とてもそうは思えない冷静な騎乗でしたよね。それに、過密なスケジュールの中、馬も頑張ってくれました。
細江馬自身の成長も感じましたか?
三嶋母のメイショウオウヒの子は何頭かいますが、みんなタイプが違います。だから、種牡馬によっての特徴を出す繁殖牝馬なんだなと思っていました。例えば、半兄のメイショウハリオはパイロの子で、ガッチリした感じ。ロイヤルはリオンディーズの子で脚の長い、薄い馬というイメージだったんですよね。それが、成長とともに、しっかりした馬体になってきたと感じています。
細江どんどん、強くなっていますよね。年内はお休みして、来年の春の天皇賞を狙うとか。連覇を楽しみにしています。
スプリンターズSをルガルが勝利
細江さらに、牧場出身馬は秋も大活躍でした。スプリンターズSをルガルが勝利しました。
三嶋春のシルクロードSでいい勝ち方をしたんですが、高松宮記念(10着)後に怪我で休養となってしまいました。6か月も休んでのGⅠだったので、とにかく無事に走り切ってほしいという思いが強かったですね。
細江左橈側手根骨骨折、左第3手根骨骨折からの復帰。状態面に関して、西村淳也騎手は戻りきっていないという感触のようでした。
三嶋杉山晴紀調教師もジョッキーも追い切って「ギリギリ間に合った感触でした」と言っているとは聞いていました。
細江不安要素がある中での出走でしたが、レースは迫る後続を振り切っての勝利なうえ、こちらもジョッキーはGⅠ初勝利でした。
三嶋心配していたスタートも出てくれてホッとしたのに、勝ってまでくれるなんて。好位3番手で折り合ってるように見えましたが、直線は大接戦で最後までどうなるか分からなかったですよね。西村ジョッキーが直線で抜け出してから、必死に追っているのが分かりました。
細江夢中だったでしょうね。勝利ジョッキーインタビューでは、「よく覚えていない」とコメントしていましたし。テーオーロイヤルもですが、こちらも騎手にとって、GⅠ初勝利でした。
三嶋伸び盛りの若い騎手が勝ってくれました。西村ジョッキーは、今年の目標がGⅠ制覇だったそうなので、願いが叶ったということですよね。良かったです。
細江父のドゥラメンテにとっても、これが産駒初のスプリントGⅠ制覇となりました。スゴい種牡馬ですね。
三嶋ドゥラメンテ自身もズバ抜けた能力を持っていましたよね。だから、初年度からうちでは、たくさんの繁殖にドゥラメンテをつけました。産駒の多くは伸びのある、雄大な馬体をしています。しかも、芝もダートも、長距離も、短距離にも活躍している子がいる。すぐれた種牡馬の典型です。
細江ほんと、そうですね。ドゥラメンテが、もういないのが本当に残念です。種牡馬になってからは、どうでしたか? 宝塚記念後に靭帯や腱の怪我での引退でしたし、スタッドインしてからも気を使うことも多かったのでは?
吉田怪我が怪我なので、初年度の種付けまでは放牧に出してあげることもできませんでした。でも、引退が4歳でしたから、来てから背が高くなったし、背中も伸びてスゴい馬格になっていきました。
細江引退後も、素晴らしい馬体を維持というより、より良くなっていったんですね、
吉田そうですね。産駒はそんな父の完成形になって、活躍してくれているんだと思います。牡馬は雄大な馬格なことが多いですよ。それに、三嶋さんがおっしゃったように、クラシックディスタンスでも、短距離でも産駒は結果を出してくれました。
価値のある方針転換
三嶋あっ、実はルガルは最初、2000mぐらいがいいかと思っていたんですよね。スプリントGⅠを勝ったのは、チョット以外というか。
細江そうなんですか! そういえば、新馬戦はダートの1800m戦でした。
三嶋おっとりした馬だったので、ゆったりした距離を走らせたいと調教師さんは思ったんでしょうね。でも、新馬戦はスタートをボンッと出て、その途端に顔つきが変わって2番手追走と先行した。初戦が終わってから、杉山晴紀調教師は「適距離が違ったかもしれません」って。そこから、徐々に距離を短くしていきました。
細江すぐに適性を見極めて、進路を変更したんですね。調教師として、勇気のいる決断ができるって素晴らしいです。しかも、それがいい方向に出たんですもんね。
三嶋はい、それが今回のGⅠ勝利にもつながっていますし、価値のある方針転換だったと思っています。
細江馬の個性を読むって難しいですね。
三嶋そうですね。その馬の完成する時期の見極めが重要なんだと思います。早く方向転換すれば正解というわけじゃない、馬の成長に合わせることは重要だし難しい。そこが、血を受け継がせていくことのおもしろさだと思います。
細江ルガルには、その決断の時期が合っていたんですね。来年も短距離路線での活躍が楽しみです。
(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

三嶋 健一郎
三嶋牧場取締役。生産馬にはテーオーロイヤル(2024年天皇賞(春)優勝)、ルガル(2024年スプリンターズステークス優勝)、ダノンキングリー(2021年安田記念優勝)など。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。中山馬主協会理事(広報インタビュー担当)。

細江 純子
1975年愛知県出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。