きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

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ダンスインザダークが菊の歴史を変えたというお話をしました。上がり33秒台の鬼脚を3000mで発揮したからです。スタミナ自慢がめざす長丁場・菊花賞は持久力勝負から、持久力+瞬発力の戦いへと趣を新たにしました。

ちょっと古い話になりますが、77年菊花賞のプレストウコウも歴史を変えた1頭でしょうか。

春はちょっと足りないレースを繰り返したプレストウコウは秋シーズンを迎え充実一途をたどります。新コンビを組んだ郷原洋行騎手(現調教師)との息もあい、セントライト記念でダービー3着のカネミノブを破り、次走の当時は秋開催だった京都新聞杯ではダービー馬ラッキールーラを抑えレコード勝ち、素晴らしい成長ぶりを見せました。

しかし父グスタフは6ハロン以下の勝星しかないスプリンター、半兄ノボルトウコウ(父パーソロン)もスプリンターズSなど短めの距離で本領を発揮しました。そんな血統評価が大きく影響したのでしょうか、本番の菊花賞では3番人気にとどまりました。

レースはスタートして2ハロン目から11秒台のラップが3つ続く厳しい展開になりました。本命ラッキールーラなどの先行勢は後続に突かれ緩急の激しい息の入らない展開になります。プレストウコウは中団の内でジッとしたままです。

「ゆっくり上って、ゆっくり下れ」と古くから戒められている京都の三角手前からの急坂、ここでレースは急変します。プレストウコウがズルズルと後退していくように見えました。やはり距離の限界か、と誰もが思ったことでしょう。

しかし実際には後退したわけではなく、スタミナ自慢の有力各馬が一斉に仕掛け早くも先頭をうかがうマクリ勝負になったのに対して、郷原騎手とプレストウコウはジッと我慢を決め込んだのが、スタンドからはズルズル下がるように見えただけなのでした。

直線で一気に弾けたプレストウコウは鮮やかに抜け出します。レコードタイムのおまけまでついていました。勝負は一筋縄でいかない、そう思わされた菊花賞でした。

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