きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ゆかりの名馬を訪ねて~アユサン~

ようこそいらっしゃいませ。

中山馬主協会および中山競馬場にゆかりの名馬をご紹介する本企画。
今週の名馬は、中山馬主協会会員の星野壽市様の所有馬として牝馬クラシックの桜花賞(GI)を制したアユサンをご紹介します。競走馬引退後は生まれ故郷の下河辺牧場に戻り、繁殖牝馬として頑張っています。

<アユサン概略>
通算成績:8戦2勝
重賞勝鞍:桜花賞(GI、2013)
下河辺牧場の繁殖牝馬として活躍。現在8歳。


アユサンが繋養されている下河辺牧場の代表 下河辺行雄 様にお話を伺いました。
生まれ故郷の下河辺牧場で過ごすアユサン
―――競走馬が一生に一度しか挑戦できないクラシック競走を制したアユサンが、生まれ故郷の下河辺牧場に帰ってきて、種付を行うまでの様子を教えて下さい。
下河辺行雄(以下、下河辺):牧場に戻ってきたアユサンは、まず“引退して翌年の種付に備える馬たち”のグループとして、種付をするための準備期間を半年くらい過ごしました。

―――種付までの半年間は具体的にはどのように過ごすのでしょうか?
下河辺:一般的に競走馬は1歳の秋頃から育成場などのトレーニング施設やトレーニングセンターに入厩し、競走馬、つまりアスリートになるため、食事の量や運動量がすべて管理・コントロールされます。そういった環境にある競走馬を、引退後すぐに青草が豊富にある広い放牧地に放牧すると食べ過ぎたり、駆け回りすぎたりするため、まずは1頭で落ち着けるくらいの広さで1~2ヵ月程リラックスさせます。

―――繁殖牝馬になるためにもステップがあるわけですね。
下河辺:そうですね、1~2ヵ月リラックスさせた後は、2回りくらい広い青草が豊富なところに放してあげます。 ただし、やはり食べ過ぎには注意しなくてはならないので、放牧時間を調整し、慣らしていきます。最初から広い放牧地に放つと、食べ過ぎ以外にも、例えば馬が爆走して埒にぶつかる危険性も高くなるので、そういった危険を回避する意味でもステップを踏んで、心身共に、アスリートのONの状態から徐々にリラックスしたOFFの状態にしてあげます。このころになると徐々に体つきもふっくらとしてきて、ボロも青草の水分を含んだもの変化してきますので、ようやく集団放牧へと移行し、昼夜20時間前後、放牧させます。
放牧中にカメラ目線をくれたアユサン
―――そうして、ようやく繁殖牝馬になるわけですね。初めてのお産の様子はいかがでしたか?
下河辺:どんなに競走成績が良くて、落ち着いている繁殖牝馬でも、出産するまでは、馬自身は何が起こっているのかよくわからない状態で、「なんで私はこんなに痛いことをしないといけないの?」という感じです。出産後、仔馬を見て初めて母性本能が出てきます。アユサンは、すぐに仔馬の匂いを嗅いでペロペロと舐め、可愛がり始めましたね。乳も良く出ますし、非常に優秀なお母さんですね。発情期も毎年セオリー通りに来ますし、受胎率も高いので、人間の側から見ても非常に優秀で助かる馬ですね。(笑)

―――初年度はキングカメハメハ、2年目はルーラーシップ、そして今年生まれた仔はキングカメハメハとお聞きしましたが、それぞれの特徴はいかがでしょうか?
下河辺:3頭に共通しているのは“美人”ということですね。(笑)あとは、父の特徴が良く出ていると思います。キングカメハメハの2頭は瞬発力があり、筋肉量が豊富で、ルーラーシップの仔は胴伸びがあり距離が持ちそうな感じですね。
繁殖牝馬としての活躍も期待されるアユサン
―――最後にアユサンやその仔にかける期待をお聞かせいただけますか。
下河辺:アユサンはクラシック馬ですし、全妹のマウレアも今年、クラシックで活躍してくれていますので、この血統にかける期待は大きいです。この牝系から活躍馬が出て、枝葉を広げてくれるのが1番嬉しいですね。ゆくゆくは「この馬はアユサンの系統だね」と競馬関係者やファンの方から言っていただけたら幸せですね。

星野壽市 様にもアユサンとの思い出をお話いただきました。
『アユサンは競走馬としての能力はもちろんありましたが、同時に強い運も持ち合わせた馬だったな、と振り返ると感じます。トライアルレース3着でギリギリ桜花賞への出走権を掴み、その桜花賞でGⅠを取れたことは実力と運がかみ合った結果だと思っております。アユサンの子供がもうすぐデビューすると思いますが、アユサン同様の活躍を見せてくれると嬉しいです。』

★繁殖牝馬の一年★
発情期に合わせて、2月上旬頃から繁殖牝馬への種付が行われ、1ヶ月程度で受胎したか否かが判明する。受胎しなかった繁殖牝馬は次の発情期に合わせて6月下旬頃まで複数回種付を行う。受胎が確認できなかった繁殖牝馬は翌年まで休養することが多い。
無事に受胎した場合、翌年の1月~5月頃に出産し、出産後の状態を見極めたうえで、その年の種付へとサイクルしていく。種付と出産に加えて、仔馬の育児も行う。

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