きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【30】バンブーメモリー
1990年12月16日 第24回スプリンターズステークス

1967年にハンデキャップ重賞としてスタートしたスプリンターズステークスは、84年にGIII、87年にGIIに昇格。さらに13年後の90年、“1年を締めくくるスプリント戦を作ろう”という機運に後押しされ、短距離馬にとって最高峰のレースと位置づけられるようになった。

――どの馬が一番速いのか!?
晴れてGIとなった90年、この栄誉を勝ち取るべく集ったのは、枠順に、バンブーメモリー、アヤノロマン、ダイナレター、ダイワダグラス、デュークプリンセス、ルイテイト、シンウインド、パッシングショット、ナルシスノワール、ダイタクヘリオス、リンドホシ、アドバンスモア、ラッキーゲラン、ミリオンセンプー、メイショウサンダー、ストロングクラウンという快速自慢の精鋭16頭。一番人気に推されたのは……武邦彦厩舎、武豊騎乗のバンブーメモリーだった。

「距離に関係なく、スタートからゴールまで、とにかく一生懸命に走る馬。器用さはゼロだけど、折り合いさえつけば、最後は必ずものすごい脚を使ってくれる」
武豊のエスコートで中団後方に待機したバンブーメモリーは、ダイワダグラスが作りだした速い流れを楽々と追走。最後の直線で、武豊のGOサインに鋭く反応すると、自慢の末脚を一気に爆発。大きなストライドで中山の坂を軽々と走り抜けると、レコードタイムで初代チャンピオンの座に輝いた。
父と子のタッグによるGI初制覇。照れくさそうに笑う武邦彦調教師の横で、デビュー当時、“タケクニさんの息子”と呼ばれていた不世出のジョッキー武豊が、会心の笑みを浮かべる。
時代が確実に動き出した瞬間……そしてこれが、武豊の中山初勝利でもあった。

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