きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【29】マツリダゴッホ
2009年9月27日 第55回オールカマー

中山を得意にしているという馬は、何頭もいた。
しかし、敬意を持って、“中山マイスター”と呼ばれた馬は、彼一頭しか知らない。
生涯成績27戦10勝。しかしこれが中山に限ると、13戦8勝、2着1回、3着1回、着外3(うち1回は落馬による競争中止)。8勝の中には、重賞勝利が6つも含まれている。
中山のコースを隅から隅まで知り尽くし、まるで自分の庭のように自在に走り回ったサラブレッド……それが、サンデーサイレンスの最終世代、マツリダゴッホだ。
ウオッカ、ダイワスカーレットの名牝2頭を相手に、鞍上の蛯名正義が、「いやぁ、乗っていた僕がアッと言っちゃいました」と勝利騎手インタビューで笑顔を覗かせた07年のグランプリレース、有馬記念。2着に5馬身差をつけた同じ07年のアメリカジョッキークラブカップ……いずれも、ファンをうならせるほどの走りだったが、彼の真骨頂は、3連覇を成し遂げたオールカマーにあると言っても言い過ぎではないだろう。

中団を追走し、三角過ぎからから徐々に進出を開始。四角先頭でそのまま押し切った07年。59kgを背負った08年は、2番手でレースを進め、直背に入り口で先頭。力の衰えが目立ち始めた09年は、スタート直後からから果敢な逃げを打ち、そのまま、まんまと逃げ切り勝ちを収めてしまった。
「馬がコースを良く知っていますよ。勝負どころで、自分からスーッと上がっていきましたからね」
勝利騎手インタビューでこう答えたのは、鞍上の横山典弘騎手。この言葉が、すべてを語っているのかもしれない。
彼を管理する国枝栄調教師が、一度だけ、冗談めかして、「ほかのGIもすべて中山でやってくれるようJRAにお願いしますかね」と語ったことがあったが、半分は本音だったような気がする。まるで名人芸を見ているような趣があった。

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