きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【23】グラスワンダー
1999年12月26日 第44回有馬記念

3強――。
かつて幾度となくこの言葉が、新聞や雑誌を賑わせてきた。
平成の3強と称された、オグリキャップ・スーパークリーク・イナリワン。新・平成の3強と呼ばれた、ビワハヤヒデ・ウイニングチケット・ナリタタイシン。彼らが残した名勝負を語り始めたら、とても一晩や二晩では終わりそうもない。
そして、一度も同時に顔を揃えたことのない“幻の3強”……1995年に生まれた、グラスワンダー・スペシャルウィーク・エルコンドルパサーがターフに刻んだ伝説もまた、色褪せることなく今も輝いている。

出走できるレースが限定されていた外国産馬のエルコンドルパサーが、凱旋門賞2着という快挙を成し遂げた後、ターフを去った1999年暮れ。残る2強、スペシャルウィークとグラスワンダーが、最後に雌雄を決する舞台として選んだのが、この中山だった。
ファン投票1位に選ばれたのは、「ダービージョッキーの称号をプレゼントしてくれたパートナーとの最後のレース……最高のカタチで送り出してあげたいですね」と、鞍上の武豊が目を輝かせたスペシャルウィーク。しかし、当日の1番人気は的場均とグラスワンダーのコンビが逆転。中山のスタンドを埋め尽くしたファンの眼は、レース前からこの2頭に注がれていた。
「相手はこの一頭!」
後方3、4番手を進むグラスワンダーをマークするように、スペシャルウィークは最後方から競馬を進める。ファンのどよめきも、前を走る馬も関係ない。このとき、的場と武の勝負に対する鋭敏な感覚は、最高に研ぎ澄まされていたに違いない。
そして最後の直線――外から差し脚を繰り出したグラスワンダーの更に外からスペシャルウィークが急追。ほぼ並んだ状態でゴール板を駆け抜けた。
「勝った!」
勝利を確信した武豊がウイニングランを行い、的場は肩を落として検量へと引き上げていく。しかし――長い写真判定の末、電光掲示板に表示されたのは1着7番グラスワンダー。2着3番スペシャルウィーク。その差は、わずか4cmという激闘だった。

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