きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【22】テンポイント
1977年12月18日 第22回有馬記念

アイドルグループ、キャンディーズが突然の解散を宣言し、読売巨人軍の王貞治選手がホームラン世界記録となる756号を達成した1977年……競馬界にも、伝説として今なお語り継がれるレースが生まれた。
世に言うTT対決――。
「お互いに、ライバルはこの馬しかいないと思い定めたマッチレース。一度でいい、騎手になったからには、こういう騎乗をしてみたい。そう思わせてくれるレースでした」
スタンドで観戦していたという岡部幸雄元騎手が、いまでも思い出すと心が震えるというこのレースこそが……テンポイントとトウショウボーイによる意地と意地のぶつかり合い、陣営の闘志が激しく火花を散らした名勝負、中山を舞台にした暮れの大一番、第22回有馬記念だ。

ここまで14戦して、皐月賞、有馬記念、宝塚記念のGI3個を含む10勝のトウショウボーイに対し、勝ち星は同じく10勝ながら、GIのタイトルは天皇賞(春)が1つというテンポイント。しかも、2頭の直接対決はトウショウボーイの4勝1敗。テンポイント陣営にとっては、この有馬記念を最後に繁殖入りが決まっていたトウショウボーイに雪辱を果たす機会はもう、ここしか残されていなかった。

「最初からいく!」
武邦彦の闘志に導かれたトウショウボーイが敢然と先頭に立つと、「楽に生かせたら追いつけないと」と判断した鹿戸明とテンポイントが、内からトウショウボーイに追いすがる。
馬体を合わせるようにプレッシャーをかけ続けるテンポイントと、「絶対に抜かせない」と強烈な意志を露わにするトウショウボーイ……史上類を見ない2頭によるマッチレースは、2度、3度と、鍔迫り合いを繰り返しながら、最後の直線に向かっていった。
差されたら差し返す。
差し返されたら、もう一度、差し返す。何度でも、何度でも。そう、相手より1cmでも前に行くために――。
結果は、4分の3馬身差でテンポイントに軍配が上がったが、満員のスタンドには、2頭を讃える惜しみない拍手がいつまでも響いていた。
テンポイントの執念なくして、トウショウボーイの煌きはなく、トウショウボーイの華麗な走りなくして、テンポイントの輝きもまたない――。
テンポイントとトウショウボーイ。2頭による世紀の対決は、中山の歴史にいまも鮮やかに刻まれている。

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