きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ジョン・ゴスデン師の炯眼と見識

10月4日は、古賀 史生 調教師の誕生日です。誕生日おめでとうございます!
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凱旋門賞は3歳牝馬エネイブルの圧勝に終わりました。日本馬サトノダイヤモンド、サトノノブレスの挑戦は、残念ながら今回も実りませんでした。道悪が敗因とされていますが、そうした弁を聞くたびに思うのは、トライアルのニエル賞を完勝しながら、凱旋門賞は出走自重したジョン・ゴスデン厩舎のもう一頭の有力馬クラックスマンのことです。デビュー2連勝したフランケル産駒を、ゴスデン師はダービートライアルのダンテSから本番エプソムダービーへ挑戦させる青写真を描いていました。しかし降り続く雨でヨーク競馬場は道悪が避けられない状態となり、師は出走回避を決断。そして迎えたダービーは1番人気に支持され、果敢に先行して直線では先頭に躍り出るアワヤのシーンもありました。しかしダンテSを叩けなかったツケなのか、神脚を繰り出したウイングスオブイーグルズに風のように追い越されたのはともかく、息切れしてクリスオブモハーにも首差遅れをとる3着に敗れてしまいます。返す返すもダンテを使っていれば最後の一息の保ち方も違っていたはず、と思わせる内容ではありました。

舞台をカラーに移したアイリッシュダービーは、主戦デットーリが落馬負傷でパット・スマレンに乗り替わるアクシデントに加えて、出走9頭中5頭がオブライエン軍団という完全アウェーの戦いとなります。しかしクラックスマンは勇敢に包囲網を突破してウイングスオブイーグルズを抑えますが、伏兵カプリの大駆けにまたも首差の2着に惜敗します。短い夏休みを終えたクラックスマンは、最後のクラシック・セントレジャーの最重要ステップレースG2グレートヴォルティジュールSで戦線復帰し、2着のオブライエン厩舎の良血馬ヴェニスビーチに6馬身、3着の同じフランケル産駒ミラージュダンサーにさらに6馬身の差をつける圧勝で大器の本格化を宣言しました。

ゴスデン師は伝統ある世界最古のクラシックレースであるセントレジャーが、クラックスマンの器にふさわしいとは考えなかったようで、トライアル・ニエル賞経由で凱旋門賞に向かうプランを用意します。しかしこの前後から鞍上デットーリが大本命馬であり実際に凱旋門賞を圧勝したエネイブルと被るために、凱旋門賞を自重するのでは?と囁かれ始めます。デットーリは親友オリヴィエ・ペリエにクラックスマンを託すことを考えたと伝えらます。もし実現していたら、凱旋門賞4勝騎手同士が史上初の5勝目を巡ってゴール前でしのぎを削るシーンが見られたかもしれません。結局クラックスマンは凱旋門賞を回避するのですが、鞍上の問題というより、ゴスデン師はやはり道悪を懸念したのでしょう。この勇気には感心します。馬に余計な負担を背負わさせず、長く競走馬として活躍を続けることを願って、結果的にダービーも凱旋門賞もゲートしなかった潔さには惚れ惚れします。今月中旬の中距離王決定戦G1英チャンピオンSにエントリーしていますが、今の時期のアスコットは道悪になる確率が高く、真価発揮は来季ということになりそうです。来年のクラックスマンはさらに強くなるはずです。新装ロンシャンでの凱旋門賞での僚馬エネイブルとの対決が今から楽しみでなりません。

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