きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

サラトガの悪夢

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華やかなリゾート競馬サラトガを襲った悲劇、トリプルティアラ=牝馬三冠に挑んだヒロイン・キュラリナがアラバマSで味あわされた悪夢はほんの序章でした。そしてサラトガ名物真夏のダービー・トラヴァーズSにレーティング世界一のヒーロー・アメリカンファラオが登場してきました。三冠後の3歳最重要レースですが、この37年ぶりの三冠馬はまったく危なげないレースで8連勝中、クールモアに高額で購買され来春にスタッドインしますが、もう引退まで負けないだろうと全米のファンから全幅の信頼を寄せられていました。

ところが競馬はやってみないと分かりません。ファラオは例によってアッサリ主導権を握ると一目散にゴールを目指します。でもこの日はちょっと様子が違いました。フロステッドがファラオをぴったりとマークして、三角過ぎでは馬体を併せての追い比べに持ち込むというチャレンジングな騎乗を見せたからです。スピードとスタミナを極限まで競うアメリカ競馬らしい白熱のレースでした。場内アナウンサーが励ますようにファラオの名を連呼しますが、フロステッドも渋太い。直線半ばでようやく振り切ったヒーロー・ファラオの背後にアラバマSで悪夢の使者となったカステリャーノ騎手のキーンアイスがジワジワと差を詰め、ゴール寸前で完全に脚が上がった大本命馬を差し切る大金星で大波乱の立役者となりました。

それにしてもキーンアイスは未勝利戦以来の勝利です。前走ハスケル招待Sでファラオの2着に健闘していましたが、まさか勝つまでは誰も想像できませんでした。まさにアメリカらしい下克上競馬でしたね。考えてみればベネズエラからやって来たカステリャーノ騎手は、サラトガの舞台が大好きでトラヴァーズSには過去5年で3勝、10年前のバーナーディニと今回を加えると5回のV騎乗を果たしています。馬もジョッキーも層が厚い北米事情を思えば大偉業でしょう。ちなみにキーンアイスは昨日お話した未来のヒーロー候補ジェスズドリームと同じカーリンの血統で、最近ちょくちょく目にするデピュティミニスター3×3の濃いクロス持ちです。アメリカンファラオを襲った思いがけない悪夢はショックでしたが、いずれにしろビッグホースマンである故ジェス・ジャクソンさんゆかりのレイチェルアレクサンドラの仔たちが大活躍し、同じくカーリンが盛名を高めた今夏のサラトガ、ジェス・ジャクソン・メモリアルみたいな感慨深い開催ではありました。

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