きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

女王陛下の主戦ジョッキー

ようこそいらっしゃませ。

華やかで荘厳なロイヤルアスコット開催が幕を閉じました。
今年も女王は毎日ウィンザー城から馬車でお出ましになられ、王立競馬の尊厳と矜持と威勢を世界にお示しになられました。ご公務と言え並大抵でありません。尊敬に値する激務ですが、主催者の顔が見えるイベントは好ましく感じられるものです。
そこにどういう馬が、馬主、調教師、騎手、さらには観客が集まるべきなのか、彼らはそこでどう振る舞うべきなのか、言わずとも、自ずと伝わる平易で明確なものになるからです。目に見える形にすると、かの有名なドレスコードになります。日本人の感覚にはハロウインのコスプレもどきに映りますが、彼らは気取りもせず肩肘を突っ張るのでもなく、ごく自然にライフスタイルの一部のように風景に溶け込ませています。

さて、今年のアスコットはライアン・ムーア騎手の一人舞台。開催5日間を通じての通算9勝は歴代最高記録を更新しました。
レスター・ピゴットとパット・エデリーが以前の記録保持者。ともに“レジェンド”(伝説)の尊称で呼ばれる偉大な騎手です。レスターはニジンスキー、パットはサドラーズウェルズなど歴史的な名馬の鞍上にあったことで末永く記憶されています。
ライアンはまだ31歳と若いのですが女王のメインステーブル・サー・マイケル・スタウト厩舎を支える大黒柱でしたから、女王の主戦ジョッキーといっても良い存在です。もちろん、一昨年のアスコットゴールドCで女王の愛馬エスティメイトが史上初の歓喜のゴールを決めたときも鞍上には彼がいました。今年から請われて超名門オブライエン厩舎に転籍しましたが、スタウト厩舎の馬には相変わらず優先的に騎乗しています。女王陛下の主戦騎手としてのプライドは彼の宝物ですから。勝ち負け以外にいろんなドラマがあり、それらが紡ぎ織り成すロイヤルアスコット競馬の魅力は実に奥が深いものですね。

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