馬事叢論 活動報告、提言など

第13回「アメリカで見た、それぞれの“改革”」

アメリカで見たこと考えたこと 第13回「アメリカで見た、それぞれの“改革”」

13回に渡ってお届けしてしてきた“アメリカ競馬場視察”レポート。 最終回の今回は、アメリカのホースマンたちが取り組んでいた 競馬場、牧場、競り市での“改革”を振り返ります。

“サラブレッドの聖地”ケンタッキーを中心に、競馬場前、牧場、競り市などの競馬施設を駆け足で巡りました。
さまざまな人々と出会い貴重な体験もさせていただきました。

中でもウィンチェスターファームの吉田直哉さん、マリさん夫妻には土地不案内の我々を親切にもてなしていただきました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。

短い研修旅行でしたが、いちばん痛切に感じたのは、アメリカのフロンティアスピリットということでした。

いい時ばかりではないのは、日本もアメリカも同じでしょう。まして一国の経済危機が瞬時に世界規模に拡がる時代です。

リーマンショックの激震は日米欧の競馬社会を一瞬に覆い、世界中のホースマンが新たなチャレンジを求められました。

最初の訪問地モンマスパーク競馬場ではギリギリの“競馬改革”に取り組み始めたところでした。

モンマスパークは大都市ニューヨークに隣接しており、とくにベルモントSが行われる週のベルモントパーク競馬場は、もろに日程がかぶり強力なライバルとして立ちふさがります。中山競馬場で皐月賞が行われる日の船橋競馬場みたいなものですね。
そこでモンマスパークでは競馬開催日数を大幅に削減し、賞金額をアップさせるとともに給付範囲を広げ、出走頭数の増大を図りスリリングなレースの実現をめざします。

さまざまな施策の中でも最下位にまで広げた賞金給付は月2走すれば預託料がまかなえ、とりわけ好評だったようです。

あまり好きないい方じゃないのですが、“馬主経済”への配慮も競馬発展には欠かせない要素です。モンマスパークのホースマンの勇気ある挑戦に拍手を送ります。

ケンタッキーの牧場では夢のような名馬に出会いました。でも、年を越して彼らにもいろいろな動きがあるようです。

ヒルンデイルファームで再会したシーキングザダイヤは新天地を求めて南米チリで種牡馬活動を続けています。競走馬時代は当協会員の青山洋一さんの所有馬として活躍し、芝、ダートともに重賞勝ちのあるオールマイティホースでした。

G1で2着9回と“不滅の大記録”を打ち立て人気のある馬でしたね。リーディングサイアー・ジャイアンツコーズウェイを出しているストームキャット産駒ですから需要は高いと思います。ぜひ新天地で輝いてほしいものです。

キングマンボ、エーピーインディなど目もくらむような名種牡馬と出会ったレーンズエンドファームには今年からゼニヤッタが繁殖として繋養されるそうです。
どんな種牡馬が配合されるか楽しみでなりません。

カジノドライヴの父として知られるマインシャフトもいます。初年度のカジノ以外に走らず期待を裏切る形になっていました。

ところが昨年は3歳を中心に産駒が活躍しはじめています。

ブレイムとゼニヤッタの一騎打ちになったブリーダーズCで地味に3着したフライダウンがその1頭ですが、彼はベルモントS、トラヴァーズSでも僅差2着しており、一流馬の仲間入りを果たしたといっていいでしょう。

トッド・プレッチャー厩舎のディスクリートリーマインもG1ホースとなり種牡馬入りを決めたようです。日本でもザッハーマインが交流牝馬路線の主役になりつつあります。偉大なエーピーインディの後継馬の座を射止めるのでしょうか。
“世代交代”という“変革”が生産地にも起きているようです。

競り市世界一のキーンランドにも“変革”の波が押し寄せています。ここでは北米で毎年生産される4万頭近いサラブレッドから4千頭を厳選して競り市に上場しています。

購買者であるオーナーたちの便宜を考えて、そこからさらに400〜500頭に絞り込んだ血統、馬体とも折り紙付きのエリートホースが《ブック1》として上場されることになります。

数多くの英ダービー馬、ケンタッキーダービー馬を輩出したキーンランドの誇りと未来をかけたセレクションですね。

世界中の大オーナーの熱い視線を集める《ブック1》、ビジネスとして考えれば、ここが売れ筋であり生命線です。
ところがキーンランドは今年から《ブック1》登録馬を半減してしまいした。宝の山を半分に削ってしまったのです。不況が長引くなかで、なかなかできることではありません。



彼らは目先の売上よりキーンランドの価値を高める重要性を決然と選択し実行したのです。素晴らしいホースマンシップを見せてもらいました。

チャーチルダウンズ競馬場も“改革”と無縁ではありませんでした。今年行われたブリーダーズCは史上初のナイター開催でした。

広大な国土を持ち、地域地域に時差のあるアメリカで何時にレースをスタートさせるかは営業上かなり重要です。ブリーダーズCのような国民的イベントはとくにそうでしょう。

今回の研修のキーワードは、どうやら“改革”にあったようです。

アメリカのホースマンたちは、競馬場で、牧場で、競り市で、あらゆる場所であらゆる人が真摯に“改革”に取り組んでいました。

熱心なファンの馬券売上に支えられて下降気味とはいえ安定した“競馬経営”を続ける日本ですが、アメリカの“改革”が対岸の火事ではないのは確かです。
競馬の健全な発展に何が必要なのか、今回の研修で得た知見を生かすことができたらと思います。

※この記事は2011年1月11日に公開されました。


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