馬事叢論 活動報告、提言など

第12回「“サラブレッドの首都” レキシントン(後編)」

アメリカで見たこと考えたこと 第12回「“サラブレッドの首都” レキシントン(後編)」

世界中のサラブレッド生産は年間10万頭以上。 そのうち3万頭以上はアメリカ生まれです。 キーンランドのセリ関係者はこれらのサラブレッドすべてに目を光らせ、血統、馬体、生育状況をチャックしています。 キーンランド推奨の名馬候補は今年は200頭。日本のセリ市との違いについて考えてみました。

世界最大の規模と最高の質を誇るキーンランドのセリ市、そうした状況はどのように生み出されてきたのでしょうか?

現在、世界中で年間10万頭以上のサラブレッドが生産されています。そのうち3万頭以上はアメリカ生まれです。カナダも加えた北米地域で世界全体の3割を越えることになります。
キーンランドのセリ関係者はこれらのサラブレッドすべてに目を光らせ、血統、馬体、生育状況をチャックしています。
血統は一生涯変わることはありませんが、馬体は刻々と変化していきます。彼らの鋭い相馬眼はそれを見逃すことはありません。

こうして手間暇かけて選び抜かれ最後に残るのが4000頭、全体の1割強のサラブレッドだけが、キーンランド・セプテンバーセールに上場されます。

しかし厳しい選別はこれで終わりではありません。

去年までは4000頭の1割にあたる400頭がさらに選ばれて《ブック1》としてセリ市名簿に登録されることになります。まさにエリート中のエリートといった存在です。

今年は《ブック1》への門がさらに狭くなり、200頭だけがキーンランド推奨の名馬候補ということになります。

世界中から寄せられるキーンランドへの絶大な信頼と彼らの良馬だけを提供したいという誇りがそうさせるのでしょう。

日本のセリ市ともっとも隔たりがあるのはセリの対象馬です。日本では長い間の慣習で当歳セリが主流でした。キーンランドの基幹は1歳セリが支えています。馬を購入する馬主にとってはるかにリスクが少ないからです。

先述のように血統は変わりませんが馬体は変わります。成長ざかりの幼駒であればあるど変化は激しく、血統学的にも欠点が強調されるケースがほとんどです。
こうした馬主リスクを考えれば当歳よりは1歳セリに軍配が上がるような気がします。

もうひとつは開催時期が日本とは異なります。日本のセレクトセールは良馬を厳選して世界的にも評価が高いのですが、7月に行われます。セプテンバーという呼び方で分かるようにキーンランドのセリ市は毎年9月に開催されます。

以前は7月にも開催されていましたが撤廃され、現在はセプテンバーセール1本で運営されています。

7月と9月、たった2カ月だけの違いですが、ひと夏越すと見違えるように成長するからです。
買い手である馬主のリスクを軽減し共存共栄の関係を築くことがセリ市自体の存続と発展の礎だと考えられているのです。

アメリカのキーンランドもヨーロッパのタタソールズも長く繁栄している秘訣はここにあるのでしょうか。

※この記事は2010年12月14日に公開されました。


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